金正恩氏と会うのは7月か(共同通信社)
いまや安倍首相と金正恩氏は、「トランプ氏が世界でたった2人だけツイッターに悪口を書かない指導者」と言われるほど“信頼”を置かれている。そのトランプ氏に「金正恩との仲介の労を執る」と言われては安倍首相も退けなくなった。
しかし、安倍首相が「無条件で」と会談実現のハードルを下げたのとは反対に、北朝鮮の朝鮮中央通信は大統領来日中も、「安倍一味こそ最も破廉恥で悪辣極まりないペテンと謀略の名手だ」(5月26日)と批判し、“拉致はでっちあげ”とのトンデモ主張を繰り返している。
トランプ氏に背中を押されたとはいえ、従来の強硬姿勢とはうってかわって日朝首脳会談に前のめりに見える安倍首相の外交姿勢は危いのではないか。外務省OBに、「外交のプロ」の視点から語ってもらった。
まず元駐韓大使で外交経済評論家の武藤正敏氏がトランプ氏の狙いと安倍首相の心理状態を分析する。
「トランプ大統領は2月のベトナムでの米朝首脳会談で金正恩に“拉致問題で安倍首相と話し合うべき”と2回伝え、2回目には金正恩も“話し合う用意がある”と言ったわけです。トランプ大統領がなぜそこまでやってくれたか。一つは親しい安倍首相に頼まれて、オレはちゃんと伝えたよというところを見せたかった。
もうひとつは、アメリカは北朝鮮に非核化を促してもカネを出すつもりはない。日本の経済支援をちらつかせることで北朝鮮の気持ちを開かせたい。そのために安倍首相と金正恩を直接会談させることで、非核化すれば日本はこれだけカネを出してくれるということを示したい。
そうした外交意図が見えるにせよ、トランプ大統領は日本のためにそこまでやってくれたのだから、安倍首相はトランプ大統領への感謝、拉致家族への誠意という意味でも“次は自分が”というのは当然のことでしょう。
自分で努力して金正恩と会わざるを得ない。これは外交的駆け引き以前の人間の信頼関係の問題です。安倍首相が無条件で会うと言ったのはそのためでしょう」
トランプ流の“義理と人情と外交的打算”で「会ってみろよ」と言われ、安倍首相はがんじがらめにされてしまったという見方だ。
※週刊ポスト2019年6月14日号