事件の現場となった熊沢容疑者の自宅
今、「8050問題」という言葉がクローズアップされている。
これは、引きこもりの長期高齢化により、80代の親が50代の引きこもりの子を支え、親子が社会から孤立していくケースなどを指す。内閣府の2018年度の調査によれば、40~64才の引きこもりは全国に61万3000人いるという。
2つの事件の背景にはこの「8050問題」があると報じられ、61万人もの引きこもりの中高年が“犯罪者予備軍”であるかのように捉える風潮もみられる。
「8050問題」が深刻化した理由をジャーナリストの池上正樹氏はこう分析する。
「親世代である今の70~80代の人たちは、右肩上がりの時代のなかでポジションを勝ち取ってきたという成功体験を持っている人が多い。しかしその子世代である今の40~50代の人たちは、若い頃からバブル崩壊など不遇の時代ばかりを経験していて、両者の価値観には大きな隔たりがある。
親世代は他人との比較評価をしてしまう価値観があり、引きこもりになってしまった子供を“恥”だと思い、存在を周囲に隠すようになる。誰にも相談できず、家族全体で長期にわたって孤立することになってしまいます」
社会から隔離された“引きこもり中高年”が、親世代への依存にタイムリミットを感じて、危険な行動に出ることが恐れられているが、一方で、“犯罪者予備軍”とされた当事者たちは、どう考えているか。「引きこもり親子公開対論」などを企画する「チームぼそっと」の主宰者・ぼそっと池井多氏はこう言う。
「“引きこもりの中高年”というのは、川崎の事件の犯人が持つ属性の1つに過ぎない。そこだけを取り上げて危険視するのはおかしいでしょう。
いちばん近くにいる親が子供を理解してあげるべきなのですが、親自身も引きこもりを恥だと思ってしまっている。だから8050問題を抱える親子の多くは日常のなかで会話がなく、お互いに言いたいことを腹にためている。そんな状況では子供がどんどん精神的に追い詰められて、暴発するかもしれない。基本ですが親が子供と向き合い、対話することが重要だと思います。向けるのは包丁ではなく、言葉でしかないと思う」
熊沢容疑者が選んだ“解決方法”は、われわれに「議論せよ」と投げかけている。
※女性セブン2019年6月20日号