別の対談集で松崎は語る。
「いやあ、労働運動なんかわかるやつが(革共同のなかには)一人もいないんですよ」
確かにそうだろう。私が何冊か読んだ理論家黒田寛一の本に、オルグの要は酒飲んでエロ話だとは一言も書かれていなかった。マル・エン全集にもレーニン全集にもトロツキー選集にも、確認したわけではないが、一言も書かれていないはずだ。
しかし、その松崎が「プロレタリア共産主義者」として、国鉄を分割民営化に追い込む重要な役割を果たした。もし後継者が育成されていれば共産主義革命が実現していたかもしれない。酒とエロ話でオルグ、恐るべし。
ところで、少し前の本だが、現代の珍書怪著ベストテンの一冊に入る本を紹介しよう。村田宏雄『オルグ学入門』(勁草書房)である。一九八二年初版以来版を重ね、今も入手可能だ。
著者は東大社会学科卒業の社会学者で、大学教授も務めた。項目だけ拾っておく。
「非力大衆を強力化する方法」「従来のオルグ方法の欠点」「科学的オルグ技術の開発」「大衆欲求の分析とその方法」「感情オルグの基本型」「三段論法的推理とその誤まる部分」…。
酒とエロ話は全く出てこない。村田センセイが理論家タイプであることだけはよく分かる。幸か不幸か、この本によってオルグ、さらに革命が実現したことはない。
●くれ・ともふさ/1946年生まれ。日本マンガ学会前会長。近著に本連載をまとめた『日本衆愚社会』(小学館新書)。
※週刊ポスト2019年6月21日号