一方、元子が恋をする相手、41歳年上の榊教授を演じるのが舞踊家・田中泯。伝説的ダンサー・土方巽に強い影響を受け、独自のダンス世界を突き詰めてきた74歳。こちらもまた非常に固有性の強い演じ手。
元子と榊原教授の間には、ありきたりな恋愛エピソードはなく、むしろ身体的触れあいを自ら禁じようとし避けている関係といってもいい。そのあたり、簡単に肉体関係に走る恋愛話より、何ともエロティックな感じが漂ってくる。
ふと接近しそうで、そうならない。不思議な振動と緊張感、空気感。心だけが近づいたり離れたり、押したり引いたり震えたり。そんな「見えない微妙な綱引き」こそこのドラマの見所です。
通常、恋愛ドラマといえば主人公の2人が互いに見つめ合うシーンが定石。しかし元子と榊教授が見つめ合うシーンは極端に少ない。2人の視線もなかなか交錯しない。その上、表情は抑え気味、セリフもあえて一本調子。
徹底して体を鍛えている田中さんは微動だにせず、ぴたりと静止して立つ。無駄な動きを排除しているからこそ、心の中の揺れだけがくっきりと浮かび上がってくるのでしょう。
何といっても素晴らしいのは、そんなベテラン舞踏家の田中さんと堂々、張り合って元子を演じ切っている橋本さんの存在感です。
「“枯れ専”や“年の差カップル”などとカテゴライズされては無視されるその奥の、愛の真実性を丁寧にお伝えできればと思います」(「ザ・テレビジョン」2019.5.9)という橋本さんの言葉も印象的。
視聴者からは「どうか渡辺淳一の世界に陥ることは避けてほしい」という声も聞こえてくる異色作。たしかにドロドロの欲望劇はもう見飽きた。とことん精神的エロティシズムを突き詰めていって欲しい。たった4回で終わるのが惜しいドラマです。