けれどオペレータの職業的なスキルが低いとは、私自身は全く思わない。新入社員やコールセンターに異動したての正社員は、長期勤務しているオペレータにOJTについてもらって電話指導を受けることが多いが、電話口から相手の要求を即座に汲み取る能力や、好印象を与える応対力、システムの処理速度はまさに職人技で、いつも圧倒されている。
なにより、一日何十人もの顧客と休む間も無く会話し、突然怒鳴られながらも理不尽なクレームを収め、突拍子もない質問をしてくる顧客にもわかりやすく答え、万人に好印象の接客をする──それはどれだけ大変な仕事で、貴重なスキルだろうか。だから他業種への転職でコールセンターでの職業経験が軽視されることには、口惜しさを感じる。
◆電話オペレータがはまる負のループ
非正規雇用から抜け出せないことは、残念ながら貧困に陥るリスクが高いということだ。もちろんコールセンターの中で、オペレータからSVになり、登用試験を受けることができて正社員になる人もいるが、それは年間数人程度。オペレータの正社員化を進めているコールセンターもあるが、ごく一部の例外的な話だ。
非正規雇用の立場でいること。そして日々お客様に怒鳴られ、感情を殺して接客をする環境の中で、働く人々の自尊心はどんどん下がっていく。
オペレータは自己肯定感が低い人が多い傾向にある。それは元々の性質もあるかもしれないが、外部的な要因も大きいように思う。
数年前、私はとある懇親会で有名なWEBメディアの編集長と名刺を交換したことがあった。そこで名刺交換直後に言われた言葉がある。
「へぇ、コールセンターのオペレータをしてるんですか? その仕事AIに取って代わられてすぐ無くなりますよ」
思わずぽかんとしてしまい、すぐに怒れなかったことを今でも後悔している。
そう、コールセンターを始めとした感情労働の仕事は、誰にでもできる仕事だと思われているのだ。それこそAIでもいい人間じゃなくてもいいんだと世間は心無い言葉を投げかける。
そうした世間の評価に加えて自尊心を傷つける日々の労働。そんな環境の中で、感情労働を担う人は次第に自信を失っていく。そして自信が無いためステップアップに踏み出せず、非正規雇用として延々とコールセンターで働いてしまう。それが、ある種の“負のループ”となっている。