「大田区や目黒区にまたがる田園調布一帯は、地名から類推できる通りかつては田畑が広がっていた。農業用水が引き込まれていたということです。多摩川も近く、氾濫すれば浸水しやすい地域だといえる。自由が丘も、戦後の地図を見ると用水池が確認できる」(渡辺氏)
関根氏は、「旧川筋」の観点から「中野五差路交差点」に注目する。
「かつて流れていた『桃園川』を潰したルート上にある。旧川筋の標高を変えずに蓋をして遊歩道にした構造になっています。23区の西側で地形的には高い山の手エリアでも、周囲より低い旧川筋の土地は浸水しやすい場所です」(関根氏)
それらの住宅街で浸水が起きたとき、想定される被害はどんなものなのか。
「家が崩されたり流されたりしなかったとしても、雨量が排水能力を上回れば、路上ではマンホールの蓋が飛ばされ、住宅内では下水とつながるキッチンや風呂場、洗濯機の排水溝、さらにトイレから下水が溢れ出すことになる。全国で水害の起きた現場を取材に行くと、酷い汚臭に悩まされるケースが多い。衛生的にもよくありません」(渡辺氏)
渡辺氏は関根氏らが開発した新システムの意義をこう説明する。
「すでに各自治体が『浸水・洪水ハザードマップ』を公表していますが、自治体のものは長時間の降雨で河川決壊などが起きたときの被害予測で、5~10mの浸水被害が生じる恐れのある場所を示している。
一方、今回の研究チームが開発したのは、豪雨による浸水深の予測システム。時間雨量50mm以上の豪雨の発生回数は、昭和50年代は年平均174回だったものが、この10年ほどは気候変動の影響により同238回と約1.4倍になった。豪雨被害が圧倒的に増えている中、こうしたリアルタイム予測は非常に重要です」
豪雨が起きたときに「水没する危険性のある地点」を知っているかいないか──それが命をも左右する。
※週刊ポスト2019年6月28日号