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マイ箸で特製つまみに舌鼓。鶴見のタワービルにある老舗角打ち

常連客は広い店内で、悠々と酒を楽しんでいる

 京浜急行花月園前駅を降りて徒歩1分、平成13年に建ったタワービルの1階に店を構える『本多政晴商店』で、いかにもの角打ちオーラを漂わせる常連客が語る。

「昔はね、駅の反対側に“お山”と呼ばれていた花月園競輪場があったんだよ。開催の日は、競輪場からこの店まで客がいつも行列していたもんだ。そりゃあすごい活気だったけど落ち着けなかったな。平成22年に競輪は廃止されたんだが、それからはゆっくり飲めるわし好みの店になったんだ」(80代、愛称・長老)

 現在、体調を崩し療養中のご主人に代わって店を守る2代目夫人の本多久仁子さんが、笑顔で相槌を打つ。

「そうね。当時と比べたら、静かな店になったよね。雰囲気という意味じゃ、このビルに移って来るまでは木造の建物だったから昭和の味っていうのがあったって言うお客さんもいますね。まあ、昭和47年創業ですから。ここに来て明るくて綺麗にはなったけど、以前のような懐かしい味は確かになくなっちゃった気がするの。そこにうちの主人じゃなくて75歳のこんなおばあさんが相手じゃ、お客さんに申し訳ないと思ってるのよ」

 これを聞いてカウンターに居並ぶ角打ち雀たちが、さえずりだす。

「こういう店はねえ、ママぐらいの年齢も気持ちも練れた人が中にいるから落ち着いて飲んでいられるんじゃないですか。作業着のまま来ても平気だし、“ママと喋りながら飲む酒のうまさよ”なのよね。これが角打ちですよ、これがこの店の良さなんですよ」(40代、土木系)

「昭和の時代当時の店は残念ながら知りません。でも、ここ、60坪あるって聞きましたよ。角打ちの店って狭いものと勝手にイメージしていたけど、こんなに広いのかい、贅沢だよなあって思いながら、のんびりゆったりとした気分で飲めるのが最高の特徴でしょ。それにママって、頼めばうまいものをいろいろ作ってくれるんですよ。さっきも誰かが特製焼きそばを頼んで、うまそうだったなあ。みんな甘えちゃって、ママというより母さんだよね。こんな角打ちの老舗の客になれたことの幸せも同時に味わってますよ」(60代、運送業)

 調理場を囲むようにコの字型のカウンターがあり、その右側にもう1本カウンターが延びている。常連の中でも長老格になる男たちが好んで飲む場所なのだという。そのうちの一人が、周囲を制して、口を開く。

「私を含めて常連には特権がありましてね。ほら、この箸を見てください、みんな違う模様と形でしょ。マイ箸ってやつですよ。私たちがカウンター前で自分の立ち位置を決めますよね。そうするとママがそれぞれに用意してくれているこれをサッと出してくれる。角打ちの店で自分だけの箸があるなんてうらやましいと思いませんか。新顔のお客さん?大歓迎ですが、失礼ながらそりゃあまずは、割り箸でしょう。マイ箸が用意されるようになって、やっとママに常連と認められたってことになるわけですよ。別に偉そうに言うわけじゃありませんけど、私らの仲間にもなったってことです」(40代、造船業)

日替わりの手作りつまみの小鉢が並ぶ

常連客は広い店内で、悠々と酒を楽しんでいる

 客のほとんどを占めているそんなマイ箸組も、やがては常連になることになるはずの割り箸組も、平等なほろ酔い顔で飲んでいるのが、焼酎ハイボールだった。

「これ、辛口でしょ、それに喉ごしがいいでしょ。夏の季節は冷えているのが、これがまたうまいんだ。私らいろんな酒に育てられながら年を重ねた人間はね、この酒の良さうまさがわかるんですよ。これ、傑作じゃないですかね」(70代、食肉関係)

 ママが書の上手な人に頼んだという“平成に感謝の一杯を”と書かれた墨書が貼られた柱をときどき見やりながら、「今日来ているのは全員が昭和生まれだよ」という常連客が、昭和、平成、そして令和の四方山話も肴のメニューにまぜて角打ちに憩う。

「母も100歳近くまで元気だったからね。私もまだこの年だし、元気なうちはいつも来てくれる皆さんのためにも、店は開けときますよ。平成に感謝し、令和の時代に乾杯しながら頑張ります」

底抜けに明るく、気配り上手な2代目夫人の久仁子さんのファンは多い

■『本多政晴商店』
【住所】横浜市鶴見区生麦5-6-11-1F
【電話番号】045-521-2625
【営業時間】月・水・木・土16時半~20時、火・金17時~20時。
【定休日】日曜
焼酎ハイボール200円、ビール大びん400円。久仁子ママの手作りおつまみ50円から各種。

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