「幸せもこの作品のテーマ」と語る山田さん
──すさまじく哀しい風景です。
貧しさと教育を受けられないどうしようもない環境の中で、犠牲になるのは子供。その子供たちは親を見て学んでしまうから、負の連鎖が断ち切れない。性暴力って、人の心を壊します。そこのところがわかっていないから、名古屋のような判決になるんじゃない? 昔より言える場所が出てきてはいるんだけれど。
──世の中も少しは動いていますが、この小説が動かすものは確実にあると思います。
シングルマザーへの周囲の視線も、昔に比べればずいぶん理解がありますよね。ただ、それはお金持ちのシングルマザーに対してであって、貧しいシングルマザーにはまだまだ厳しい気がします。私がこれを書いたからと言って、何かが変わるわけではない。性暴力がなくなるわけでも、虐待がなくなるわけでもない。でも、一方的に流される物語を信じるのではなく、そこに至った経緯や、否応なく絡み合ってくる人間関係があることがわかってもらえれば、と。
今回は実際の事件に形を借りたけれど、これは私が作り上げた世界でもあります。常々、小説家が選んだ言葉でしか描けない人間模様を書きたいと思っていて、そういう意味では、今回の作品で何か普遍的なものを書けたという手応えはあります。
──口に出して言う「幸せ」がキーワードになっていますね。
幸せもこの作品のテーマです。人の数だけある「幸せ」と「不幸」というものを事細かく書いていきたいというのが、この作品に限らず、作家としての私のテーマです。それらがどんなもので作られていくのかを考え始めるとキリがありませんが、これからも、隙間なく「幸せ」と「不幸」を書いていきたいです。
インタビュー・構成/島崎今日子、撮影/五十嵐美弥
※女性セブン2019年7月4日号