寝返りが打てないことも(AFLO)
山登りを始めたばかりの人たちにとっては“登山者の疲れを癒すオアシス”というイメージのある山小屋だが、たしかに現実は少し違っている。
夏の登山シーズンにもなれば、畳1枚のスペースに男女問わず2~3人が詰め込まれての雑魚寝も当たり前。山小屋デビューを果たした人には、寝返りを打つこともままならないその光景はショッキングに映るかもしれない。
それに加えて前述のような“冷たい対応”を受けることもある。南北アルプスをはじめ、全国の山々を制覇したベテランハイカーも嘆息する。
「登山者を“泊めてやっている”“休憩させてやっている”という意識が強い山小屋はたしかにあります。気に食わないことがあると“だったら出ていきなさい!”と怒鳴る主人もいますね……」
普通に考えれば“山好き”が高じて山小屋の主となるのだろうから、登山者に優しく対応してくれそうなものだが、なぜこんな現象が起きるのだろうか。登山家でもある小説家の穂高健一氏はこう分析する。
「山小屋の多くは“世襲制”で新規参入が困難。一度運営する権利を手にすれば競争原理はほとんど働かず、胡坐をかいていても経営には困らないのです」
山小屋営業の新規参入について環境省は、「国立公園内で宿舎事業を営むには、行為許可と事業認可の2つをクリアする必要があり、個別具体的な判断となる。新規開業する門戸は開かれていますが、土地を切り開いて新たに山小屋を建てたケースは、知る限り思い当たらない」(自然環境局国立公園課)と話す。
加えて、新規に山小屋を建てるとなれば、膨大な費用がかかる下水処理設備やバイオトイレの設置などが必要になるため参入へのハードルは高い。そうした事情もあり、代々、営業を続けてきた山小屋が「既得権益」を持ち、“殿様商売”になりやすい環境がありそうだ。