ライフ

人気の猫写真家が『トラとミケ』を読んで呼び覚まされた古い記憶

人気の猫写真家の沖昌之さんは『トラとミケ いとしい日々』をどう読んだのか?

 作者・ねこまきさんの代表作といえば『ねことじいちゃん』。動物写真家の巨匠・岩合光昭さんが初監督を務めた実写映画も大きな話題になった。そのねこまきさんが今回『トラとミケ いとしい日々』で挑んだのは、「猫だらけ」の漫画。擬人化された猫たちが日々を一生懸命に生きる姿をあたたかく描いた会心作だ。日々、猫を撮り続ける人気の猫写真家の沖昌之さんは『トラとミケ』をどう読んだのか。沖さんが綴ったスペシャル書評をお届けします。

 * * *
 写真の世界では、「うわーっ」と思わず感嘆のため息がもれるような美しい情景の写真が好まれますが、ありきたりな日常の中の一枚の写真でも、見た瞬間から心の中で思い出や物語が始まる写真も好まれます。

 僕の猫写真もどちらかというと後者な感じで、写真展に来場されたお客さまから、「うちの家のコも、この格好よくする!」というお声をいただきます。僕の猫の写真を見ているけど、そのかたの心の中では 自分の飼われているコのことがよぎり、最後に思うことは 「うちのコ一番かわいい」だと思っています。そんな感じの仕掛けがこの作品にもちりばめられています。

 昭和の世界を歩いてきたかたがたなら、この漫画を読んでいたらいつの間にか自分の思い出の世界で足を止め、懐かしむ時間があるでしょう。そう感じながら、自分も思い出に浸っていました。

 僕が立ち止まってしまったシーンは、第9話「歳末の候」の、トラとミケのお母さんがおせち料理をこしらえるところです。

 うちの母もおせち料理を作る人で、年末はおせちの下ごしらえで一日中台所にいました。トラとミケのお母さんのように、傷まないものから先に作っていましたし、黒豆も毎年炊いていました。そして、僕もトラとミケのように「錆びた釘を拾ってきてほしい」と言われたことを思い出しました。

 当時は小学生で幼かったので「錆びた釘」の意味は分かりませんでした。でも、親に頼られていることが嬉しくってせっせと釘を拾ってきたんです。この本を読むまでは記憶のどこかに行っていたのに、読んだ時にふわっと記憶が蘇ってきたんです。そういえば、栗きんとんを、すりこぎで平らにつぶすのは僕の仕事でしたね。

関連キーワード

関連記事

トピックス

民放ドラマ初主演の俳優・磯村勇斗
《ムッチ先輩から1年》磯村勇斗が32歳の今「民放ドラマ初主演」の理由 “特撮ヒーロー出身のイケメン俳優”から脱却も
NEWSポストセブン
亡くなった米ポルノ女優カイリー・ペイジさん(インスタグラムより)
《米ネトフリ出演女優に薬物死報道》部屋にはフェンタニル、麻薬の器具、複数男性との行為写真…相次ぐ悲報に批判高まる〈地球上で最悪の物質〉〈毎日200人超の米国人が命を落とす〉
NEWSポストセブン
和久井学被告が抱えていた恐ろしいほどの“復讐心”
「プラトニックな関係ならいいよ」和久井被告(52)が告白したキャバクラ経営被害女性からの“返答” 月収20〜30万円、実家暮らしの被告人が「結婚を疑わなかった理由」【新宿タワマン殺人・公判】
NEWSポストセブン
松竹芸能所属時のよゐこ宣材写真(事務所HPより)
《「よゐこ」の現在》濱口優は独立後『ノンストップ!』レギュラー終了でYouTubeにシフト…事務所残留の有野晋哉は地上波で新番組スタート
NEWSポストセブン
山下市郎容疑者(41)はなぜ凶行に走ったのか。その背景には男の”暴力性”や”執着心”があった
「あいつは俺の推し。あんな女、ほかにはいない」山下市郎容疑者の被害者への“ガチ恋”が強烈な殺意に変わった背景〈キレ癖、暴力性、執着心〉【浜松市ガールズバー刺殺】
NEWSポストセブン
英国の大学に通う中国人の留学生が性的暴行の罪で有罪に
「意識が朦朧とした女性が『STOP(やめて)』と抵抗して…」陪審員が涙した“英国史上最悪のレイプ犯の証拠動画”の存在《中国人留学生被告に終身刑言い渡し》
NEWSポストセブン
早朝のJR埼京線で事件は起きた(イメージ、時事通信フォト)
《「歌舞伎町弁護士」に切実訴え》早朝のJR埼京線で「痴漢なんてやっていません」一貫して否認する依頼者…警察官が冷たく言い放った一言
NEWSポストセブン
降谷健志の不倫離婚から1年半
《降谷健志の不倫離婚から1年半の現在》MEGUMIが「古谷姓」を名乗り続ける理由、「役者の仕事が無く悩んでいた時期に…」グラドルからブルーリボン女優への転身
NEWSポストセブン
橋本環奈と中川大志が結婚へ
《橋本環奈と中川大志が結婚へ》破局説流れるなかでのプロポーズに「涙のYES」 “3億円マンション”で育んだ居心地の良い暮らし
NEWSポストセブン
10年に及ぶ山口組分裂抗争は終結したが…(司忍組長。時事通信フォト)
【全国のヤクザが司忍組長に暑中見舞い】六代目山口組が進める「平和共存外交」の全貌 抗争終結宣言も駅には多数の警官が厳重警戒
NEWSポストセブン
遠野なぎこ(本人のインスタグラムより)
《前所属事務所代表も困惑》遠野なぎこの安否がわからない…「親族にも電話が繋がらない」「警察から連絡はない」遺体が発見された部屋は「近いうちに特殊清掃が入る予定」
NEWSポストセブン
放送作家でコラムニストの山田美保子さんが、さまざまな障壁を乗り越えてきた女性たちについて綴る
《佐々木希が渡部建の騒動への思いをストレートに吐露》安達祐実、梅宮アンナ、加藤綾菜…いろいろあっても流されず、自分で選択してきた女性たちの強さ
女性セブン