ピンク色の「箱根ケ崎方面」「八王子方面」「町田方面」3路線が延伸計画として検討されており、そのうち交通政策審議会は「箱根ケ崎」と「町田」の2計画を早く進めるよう答申している
東京都が事業認可を受けなければ、線路用地の買収交渉を始めることはできない。しかし、悠長なことを言っている余裕は町田市にない。一刻も早く、モノレール建設に取り掛かりたい。
町田市が焦る理由は、モノレールが乗り入れる予定の町田駅の駅前用地にある。町田駅前は、交通の便がいいことからマンションやオフィスビルの需要が高い。うかうかしていれば、事業認可前に駅前の土地が建設会社や都市開発事業者に買収されてしまう。そこにマンションやオフィスビルが建設されてしまうかもしれない。
マンションやオフィスビルが立てば、権利関係は複雑になる。権利関係が複雑になってしまえば、用地の再買収に長い歳月を要する。必然的に開業は遅れるだろう。最悪の場合、モノレール計画が頓挫するかもしれない。
町田市にとって、モノレールの延伸は“東京化”を強化する重要な施策だ。そのためにも、計画の頓挫は許されない。
ほかにも町田市を焦らせる要因がある。多摩都市モノレールの延伸構想が浮上しているのは、町田駅方面だけではない。町田駅方面への延伸と同様に、多摩センター駅から八王子駅方面に延伸する構想もある。また、現在は北の終着駅になっている東大和市の上北台駅から瑞穂町の箱根ケ崎駅まで延伸する計画もある。
八王子駅方面への延伸は交通審議会の答申に盛り込まれなかったが、箱根ケ崎駅へ北進は盛り込まれた。仮に、箱根ケ崎駅への延伸区間が先に着工すれば、町田駅までの延伸工事は後回しにされかねない。
上北台駅から箱根ケ崎駅までは、導入空間と呼ばれるモノレール下の道路整備が町田駅方面よりも早く進んでいる。現状、町田駅の延伸構想よりも一歩リードしている状況なのだ。
後回しや計画中止といった事態を回避するべく、町田市は東京都が事業認可を受ける前に動き出した。東京都に替わって、町田市は駅前から市民病院までの約2キロメートルの区間を先行して買収することを決定。町田市が買収した用地は、事業認可後に改めて東京都へと売却する。町田市が用地買収をサポートすることで、モノレール工事をスムーズにする算段だ。
しかし、多摩センター駅から町田駅までは、約13キロメートルある。そのうち、町田市が先行買収するのは、わずか2キロメートルに過ぎない。これで、モノレールをスムーズに建設できるのか?
「多摩センター駅から町田駅までの延伸区間は、約13キロメートルと試算されています。そのうち、約11キロメートルは市街化調整区域、そして道路が整備済の区間です。つまり、すでに約7キロメートルは導入空間を確保しています。市街化調整区域に建物はありませんし、これから建つ予定もありません。そのため、事業認可を受ければすぐ着工できる状態です。また、道路に関しても拡幅工事を必要とする可能性もありますが、用地買収の手間はかかりません。一方、町田駅からの約2キロメートルは、住宅やビルが建っている区画です。ここが、モノレール建設のボトルネックになる可能性が高く、そのために市が先行して買収することにしたのです」(前出の多摩都市モノレール推進室担当者)
多摩都市モノレールは、約1キロメートル間隔で駅が設置されている。すべての駅ではないものの、いくつかの駅にはバスターミナルや駅前広場が整備されている。
当然ながら、延伸区間にもバスターミナルや駅前広場のある駅が開設されるだろう。その場合、線路用地よりも広いスペースが必要になる。
「駅の設置場所を決めるのは次の段階で、まだ何も決まっていません。決めるのはこれからになるでしょう。そのため、バスターミナルや駅前広場の用地買収まではしていません」(同)
一時期、多摩都市モノレールは債務超過に陥り、破綻寸前まで追い込まれたこともあった。そこから一転し、現在は黒字経営。自治体が積極的に延伸の手助けするぐらいの地域の足になった。
モノレールの延伸によって、町田市は多摩市や立川市と直結する。これにより、神奈川よりも東京との結びつきを強めるだろう。「町田は神奈川」と言われなくなる日は近い、かもしれない。