レストランのディナー席を参考に照明の当て方にもこだわった
マツダの常務執行役員でデザイン・ブランドスタイルを担当する前田育男氏は、谷尻氏や同様にデザインに関わった建築家の吉田愛氏に対して、店舗デザインの設計についてこんな注文を出していた。
「最初にお願いしたのは、お客様にとって居心地のいい空間にしてほしいという点と、ともかく敷居を上げないでくれと。上質さを追求すると高級な方向に振りやすくなりますが、敷居が高くなってお客様が入りにくくなるのでは意味がない。そうではなく、店内でゆったりと寛いだ気持ちになれるようにしてほしかった。あとは店内に入らずとも、外から見てもショールームのクルマが美しく映えるように見せたいと。
もう1点、店長には、ここはクルマを売る店じゃないという自覚でやってほしいと言っています。いわばマツダのクルマを“味わってもらう”場所であって、いきなり販売スタッフが契約書類や電卓を片手にお客様と接するスペースではない。そういう場所づくりを心掛けてもらっています」
以前、マツダの丸本明社長は、「マツダ車の目標は和製BMWのようなイメージか」との問いに対し、「(ベンツやBMWなどの)欧州プレミアム車の中で“賢い選択肢”になりたい」という表現をしていた。
品質面ではドイツ車と遜色ないのに価格帯はお買い得──というポジションの獲得を意識しているとすれば、ブランド発信旗艦店でも上質感や上品さを保ちつつ、敷居は上げないというポリシーは合致する。
ちなみに、前田氏のようなカーデザイナーが店舗デザインの監修をすることは異例のこと。マツダ車の世界観をトータルで表現するには、「料理(クルマ)に見合う皿(店舗)があってこそ」(同)というわけだ。
たとえば、クルマを最大限に美しく見せるため、ショールームの照度は一般的な明るさよりも落とし、照明の当て方も、最もクルマが映えるような角度に設定されている。想定したのはレストランのディナー席だという。周辺の照度は同じように落とし、テーブルに置かれた料理に照明をフォーカスするやり方をクルマに応用したのだ。
