この徹底ぶりは、“納車ルーム”のフロアを設け、新車引き渡しに際して駐車場でキーを受け渡すだけの、よくありがちな味も素っ気もない儀式を廃した点にも見て取れる。
「お客様はクルマに300万円とか400万円を支払うわけで、ポンとキーだけ渡されたらイヤな感じですよね。もっと丁寧にお渡しすることが必要。百貨店でも、高価な陶器や時計などを買ったら包装してレジで、はいどうぞではなく、お渡しは別室で行ったりする。それと同じです」(前出の前田氏)
クルマの見せ方や接客へのこだわりは、マツダがクルマを所有することに悦びを見出す層をターゲットにしているからだ。クルマというハードに完成形がないように、店舗デザインの深化やクルマの見せ方にもまだまだ貪欲でありたいという。
「クルマに当たる光にはこだわっています。光の当たり方が変わることで、あたかもクルマが生きている動物のように見えるところまでもっていきたい。そういう要素を店舗内でも表現できたらいいですね。具体的には店内にターンテーブルを置いて、クルマを少しずつ回して見せるようになればベスト。次はクルマの見せ方の進化です」(同)
見せ方と同時に前田氏が渇望しているのが、よりマツダ車のブランドイメージを高めるためにも、都心部にフラッグシップとなるショールームを出すことだ。たとえばホンダは港区青山に本社ショールームがあり、日産自動車も中央区銀座の4丁目交差点という好立地にショールームがある。ブランドイメージ向上に一役買ってきたことは間違いない。
その点、マツダも広島と東京の2本社制を敷いてはいるが、東京本社が入る千代田区内幸町のビルは自社ビルではないため、ショールームがない。当地は三井不動産が同エリアの広域再開発に入るため、年末にもマツダは東京本社を移転する。移転先はまだ非公表だが、テナントで入る以上、ショールーム併設は難しそうだ。
「都心のショールームは本当に欲しい。たぶん、マツダの中で僕が一番欲しがっているでしょう(笑)。それも、ビルの1階の一角でいいので、できることなら丸の内界隈に欲しい。物件難やコスト面のハードルは高いですが、次のステップでは、そういうことも企画しないといけないですね」(同)