映画『羅生門』が芥川の二つの小説「羅生門」と「藪の中」を原作としていることは有名である。著者はもう一篇の芥川作品を考察に加える。やはり十二世紀末の京都を舞台にした「偸盗(ちゅうとう)」である。
「偸盗」こそは、「二人の兄弟と野良犬の話」であり、『羅生門』で志村喬が赤子を育てるラストシーンを引き出してくるというのだ。兄をめぐる告白と隠蔽の物語として黒澤映画を再考し、「語り」という日本文学史の失われた伝統をも想起させる。豊かな示唆を与えてくれる本である。
※週刊ポスト2019年8月2日号
映画『羅生門』が芥川の二つの小説「羅生門」と「藪の中」を原作としていることは有名である。著者はもう一篇の芥川作品を考察に加える。やはり十二世紀末の京都を舞台にした「偸盗(ちゅうとう)」である。
「偸盗」こそは、「二人の兄弟と野良犬の話」であり、『羅生門』で志村喬が赤子を育てるラストシーンを引き出してくるというのだ。兄をめぐる告白と隠蔽の物語として黒澤映画を再考し、「語り」という日本文学史の失われた伝統をも想起させる。豊かな示唆を与えてくれる本である。
※週刊ポスト2019年8月2日号