「ダム湖というのは山に挟まれた谷にあり、“じょうご”のような形状をしていて、上に行くほど面積が広がるので、少しかさ上げするだけで貯水量は大幅に増えます。しかも自然の力で水が高い位置に貯められるので非常に価値があります。
北海道にある新桂沢ダムでは実際にかさ上げ工事を実施していて、来年の完成を予定していますが、もともとの高さが75.5mだったダムを11.9mかさ上げするだけで、貯水量は9200万トンから1億4700万トンへと、およそ1.6倍にまで増えます。貯水量が増えれば、治水や利水の能力も高まるので、防災の面でも有利になります」(竹村氏)
しかし、ダム建設には莫大な費用がかかるのが普通だ。何千億円もかかるのなら費用対効果の面で意味があるのか。
「民主党政権時代に高額な事業費が問題にされた八ッ場ダムは、総事業費が約5000億円とされていますが、そのうち、JR吾妻線の付け替え補償が約3000億円、ダム建設のための道路付け替え等が約1000億円、ダム本体の建設費は500億円程度です。既存ダムのかさ上げ工事では、補償はすでに終わっていますし、道路も整備されていて、本体のかさ上げ工事だけですむので、それほどお金はかかりません」(竹村氏)
そうはいっても、何百億円という単位のお金はかかるはずである。竹村氏の挙げた「新桂沢ダム」は、国のダム事業では初の同軸かさ上げ工事(既存ダムを上に延ばす工事)として2015年に竣工しているが、これまで下流域で洪水がたびたび起きていたため、治水機能の向上が主たる目的で実施されている。国交省の水管理・国土保全局治水課に問い合わせたところ、かさ上げ工事は同じ幾春別川に新規建設中の「三笠ぽんべつダム」と合わせて1つの事業として扱われ、合計の事業費は1150億円(両ダムで共通する工事もあるので個別の金額は出せない)という。
ただ、ダム1基のかさ上げで何百億円もかかるとはいえ、福島第一原発の事故以降、原発の再稼働ができなくなり、火力発電に頼り切っているため、天然ガスや石炭など化石燃料の購入費は年間3兆円から4兆円も増加している。これは原発を再稼働しない限り毎年かかり、中東諸国やオーストラリアなど諸外国に支出するばかりで、国内の経済効果はゼロに等しい。それどころか、電気代の上昇を招き、日本の景気にはマイナスに作用している。
一方、ダム工事というのはオールドエコノミーの代表だが、地方経済を活性化するのは事実で、火力発電を減らすこともできる。
「ダムは一度建設すれば半永久的に使えるうえ、雨という自然のエネルギーを利用して発電するので、燃料費もゼロです」(竹村氏)