第一の「多目的ダムの運用を変える」とはどういうことか。多目的ダムとは、飲料水や農業用水などに利用するために水を貯める「利水」や、台風や豪雨のときの増水を受け止める「治水」、貯めた水の位置エネルギーを電力に変える「発電」など複数の目的で建設されたダムのこと。日本ダム協会の集計によると、日本には2755か所のダムがあるが、この内、889か所が多目的ダムである(2018年3月末時点)。
「多目的ダムは60年以上前にできた『特定多目的ダム法』という法律に縛られ、6月半ばから9月末までの雨量の多い時期にダムを満水にできず、おおむね半分しか貯めていません。治水のためにはダムを空に、利水のためにはダムを満水にするのが望ましく、この2つは相反するため、中間を取って半分だけ貯めている。ダムを満水にしたほうが発電量も増えます。洪水期には半分しか貯めていないので、水力発電から見れば、十分能力を発揮していない。発電の観点から考えた場合、ダムの底から10mに貯める価値はありませんが、上部標高の10mは非常に価値が高いのです」(竹村氏)
ダム湖に流入する水の量は変わらないのだから、ダムを満水にしようがしまいが、発電量は同じのように思えるが、実は違う。水力発電というのは、ダム湖の水を下流に落としてスクリューを回して発電するしくみで、水の放出口は下部にあるが、水がたくさん上まで貯まっていたほうが、放出口に大きな水圧がかかり、発電量は増える。半分しか貯めないと、一番おいしいところを捨てることになるのだ。
しかし、梅雨や台風のシーズンにダムを満水にしたら、治水という目的を放棄することにならないのか。
「なりません。特定多目的ダム法が施行されたのは1957年で、現代からすれば信じられないような話ですが、当時は気象衛星も気象レーダーもスパコンもなく、台風がどこでどんな規模で発生し、日本にいつ来てどういうルートを辿るか、雨がどれだけ降るかなど、まったく予測できなかったのです。この法律で示されているのは、何もわからないまま100年に1度の大洪水に備えるための基準です。今は気象予測がかなり正確にできるようになっていますから、豪雨が予想された時点で放水すれば十分間に合う。大型ダムなら6時間程度、小型ダムなら3時間程度で放水できます。ダム操作規則の改正が必要ですが、気象予測に合わせてダムの貯水量を柔軟にコントロールすれば発電量を大幅に増やせます」(竹村氏)
◆既存ダムの「かさ上げ」で貯水量を増やす
第二の「ダムのかさ上げ」は、既存ダムに対して追加工事を行なって、ダムの高さを上げて貯水量を増やすということ。