写真館で家族写真を撮った子供時代、大人はみんな「ちゃんとしている」と思っていた(イラスト/ヨシムラヒロム)

写真館で家族写真を撮った子供時代、大人はみんな「ちゃんとしている」と思っていた(イラスト/ヨシムラヒロム)

 昨夜、400万円以上を失った衝撃が全く見られないA。そもそも、還付金が戻ってくるとなぜ信じ込んでしまったのか。せっかくなので、身近な被害者Aに事件の詳細を聞いてみた。

 9月13日の18時頃、家の電話が鳴った。このご時世、家にかかってくる電話はセールスぐらいだ。よって普段は誰も出ることはない。しかし「ちょうど近くにいたから」といった理由でAは受話器を取ってしまった。詐欺師にとってはラッキーであり、実家にとってはアンラッキー、420万円の行き先が決まった瞬間でもある。

 電話から聞こえてきたのは、区役所職員を名乗る声。Aは「還付金に関する青い封筒が6月に届いているはずなんですが、もう対応されました?」と聞かれた。知らないと答えると、「平成27-29年の医療費の還付金3万8900円が戻るから今日中に対応して欲しい」と職員。Aは作業を頼まれた。

“落ちたついた今だから言えるが”など関係なくツッコミどころが満載である。まず、区役所の通常業務時間を過ぎた18時頃に電話がかかってくるのがおかしい。「今日中に」と強く念押しされた時点で疑うべきだろう。しかし、Aはこう弁解する。

「いや向こうがさ、コチラのフルネームとB銀行に口座を持っていることを知っていたんだよね。そこですっかり信用してしまったんだな」

 なぜ名前と口座を持っていることだけで信じてしまうのか。その疑問が残るがAの話は続く。

「区の職員からさ、B銀行のサービスセンターの人から電話かかってくるから手続きの準備をして待っていてほしいと言われた」

 言われた通りに、B銀行のキャッシュカード、クレジットカード、免許書、印鑑を準備するA。自称区役所からの電話が切れた5分後、B銀行本店サービスセンターを名乗る人物から電話がかかってきた。

 ここで1つ大きな疑問が浮かぶ。自称区役所職員からの電話ではB銀行の口座のことしか話していない。しかし、実際には3行の口座から458万円を入金している。他2つの銀行口座はどこから現れたのか。

「B銀行本店を名乗った詐欺師にコチラから、B銀行の口座名義は会社のものになっていますが大丈夫ですか?と聞いちゃったんだよ」

 現在、Aは半分リタイア状態ではあるものの現在も会社を経営している。主に使っているのが会社としての銀行口座だ。しかし、還付される医療費はA個人に対してのもの。それゆえ会社の口座とは別会計にするべきといった、奇妙な律儀さを発揮したということらしい。

 報道で何十回と聞いた、特殊詐欺の手口にキレイにハマっている。正直、なにも工夫がない詐欺、年齢関係なくまともな人なら騙されることはないはず。Aは実家から銀行への道すがら、疑問を抱くことはなかったのか?

 僕の問いにAはこう答えた。「一切なかったね」ときっぱり。

 18時半を過ぎた頃、Aは窓口業務が終わったB銀行に到着した。ATMコーナーにA以外の客はいない。Aは教えられたB銀行サービスセンターだと教えられた番号に電話をかけた。そして、詐欺師に言われるがまま、作業を始める。まずB銀行の口座から約49万円、約49万円、約70万円、約45万円と計4回、約200万円を振り込み。振り込み先は4か所バラバラで、その全てが個人口座である。なかには外国人名義の口座も。理解しがたい不自然な作業に疑いは芽生えなかったのか。

「向こうが、還付金の新システムを使っていると言ったので信じちゃったなぁ。色々な銀行に確認をとってコチラに振り込むと言っていた。そもそも、今お前が見ている明細書をその場でチェックしてないから。当たり前だけど、コチラは振り込んでいる感覚が全くない。詐欺師の言う数字のボタンを押しているだけだからね。約49万も『4、9、1、2、6、0、5』といった数字の羅列でしかないから。そもそも振り込んでいると思っていれば、騙されないでしょ」

 あっけらかんと話すA。「振り込まされたんだよな、ある意味ね」と意味不明なことまで言う始末である。ここにきて台所で皿を洗っていた母がキレた。

「変なところに振り込んでいるってなんでわからないの? ボケてるんじゃない!」

 ボケていない、新しいATMのシステムについていけてないだけ。「何度も言っているが、オレは数字を入力しただけだと思っていて、入金していることに気づいていないから」と反論するA。怒りに震える母をまぁまぁとなだめ、B銀行の預金がすっからかんになるまで数字を入力、つまり振込を続けた経緯を聞く。すると予想を上回る珍答がAの口から発せられた。

「最初、確認のためにと“残高”を言わされたんだよ。思い出すと、向こうは”残高”という言葉は使わなかったなぁ。あくまで確認のための数字と称してコチラの“残高”を聞いてきたんだ」

……この分析をなぜATMの前で発揮できなかったのだろう。僕は暗証番号まで教えていそうなAが怖くなってきた。そして、Aの回想はさらに深い困惑の森へ僕と母を連れ込む。

「B銀行のお金をあらかた振り込んだ後、オレ『もう面倒くさいからいいや」と電話で言ったんだよ。そうしたら『一度始めてしまったから最後までやってもらわないと困る」と言われてさ。B銀行で作業を完了できていない可能性もあるから、C銀行のカードを使って再び作業をして欲しいと頼まれた」

「なんで、そこでやめないのよ!」母の語気はさらに激しくなる。

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