B銀行同様の手口でC銀行の個人口座から約49万円、約51万円、約38万円、約43万円と単なる数字の入力のつもりで計187万円を入金。最後にだめ押しと3枚目のD銀行カードから58万円も入金。諦めを交えつつAに再度質問してみた、「いいかげん、疑いを持たなかったの?」

「オレもさ、ヘルニアが痛くなってきて2枚目のカードの途中で『もう腰が痛いからやめたい』と言ったの。けど詐欺師が『途中でやめるとコンピューターに異常が起きる』と断られたんだよね」

「もう、いい加減にして!」頭を抱え込む母。

「さすがにD銀行の段階になったら、どうもおかしい気はしたよ。けど、詐欺だと信じたくない自分がいるじゃない。結果、言われた通りに最後まで入金してしまった。オレも最後に『これ詐欺じゃないですよね』と確認はとったよ、一応ね……」

「詐欺師が『はい、詐欺です!』なんて言うはずないでしょ!」と母が叫ぶ。

「いつもケチケチ溜め込んでいたお金が一瞬でなくなっちゃったんだよ!」と続ける母に「お前のそういう言い方は本当に腹が立つ。オレが貯めた金がどうなろうとオレの勝手だろ!」と怒鳴るA。子供が見たら、トラウマになりそうなテンプレートどおりの夫婦喧嘩である。これに付き合っていると時間がいくらあっても足りない。

 喧嘩を遮り、Aにいつ詐欺にあったことを確信したの?と聞く。

「帰り道かなぁ、どうもおかしいなぁと思った。そして、家で明細書を見て気づいたんだよね」

 つまり、最初から最後まで騙されっぱなし。絶句する僕に「育った時代が違うからな」とA。

「お前はわからないと思うけど、オレは国や銀行を信用している世代。最初の電話で銀行とのやり取りだと信じたので、そのまま言われたとおりに振り込み作業をしてしまったんだよな」

 たまらず母が「全く工夫のない還付金詐欺じゃない。一日中テレビ見てるけど、一体ナニを観ているの? 銀行にも啓蒙ポスターが貼ってあるでしょ!」と古典的な手口に騙されたことをなじる。するとAは軽快に「オレには関係ないことだと思っていたからさっ」と即答。

 ここで僕は今までのやりとりがなんだかギクシャクしていた理由に気づく。ウソだと思いたいが、間違いないだろう。頭に浮かんだ疑問をAに投げかけた。

「まさかなんだけどさ“還付金詐欺”という存在を自分で被害に遭うまで知らなかった?」

「うん」

 Aは還付金詐欺の情報を全く知らなかったのである。前知識がないため一切のガードもない。それゆえ、携帯電話片手にATMを操作する自らのシチュエーションに疑問を抱くこともない。呆れた母が不満をぶつける。

「どうせ詐欺師にもホイホイ対応したんでしょ。外面ばっかりよくやってるから、こういったことになるんだよ!」

 Aは「お前、オレの生き様を否定するのか?」と激怒し、「けどね、情報が行き届いていないのも良くないよね」と“自分は悪くない宣言”をした。

 そしてこのとき起きたことは出来すぎた話だと思う、しかし本当にあった出来事なので記載したい。

 Aの宣言から数秒後、外から「区からのお知らせです~。現在、区役所の名前を装った還付金詐欺が横行しております~。区からそういった電話をすることは一切ありません~。電話あり次第、警察へ至急連絡してください~」といった放送が流れてきた。

 こうして、Aへのインタビューは終わった。

 変わらざるを得ない実家の財政を考えれば汗も吹き出る。今後、Aが似たようなトラブルに巻き込まれないかも、心配だ。どんより疲労を感じつつ「なんも良いことねぇなぁ」とつぶやく。重たい身体で事務所に戻った。そして、最初にしたことといえばAbemaTVで配信される番組『DT(※童貞という意味)テレビ』を観ることだった。モニタからは童貞が美女相手に不慣れな合コンする様子が流れている。僕は爆笑した。

 そんな自身を省みて、ネットテレビのコラムを書き続けているワケに気づく。嫌なことがあった時、受けた不快感を笑いでうち消そうと試みる。ある種、僕は笑いを提供してくれるネットテレビに救われている。それゆえ人並み以上に固執し、深掘りしたいと願うのだろう。ゆえに2年以上、毎週飽きずに観た記録を記している。

●ヨシムラヒロム/1986年生まれ、東京出身。武蔵野美術大学基礎デザイン学科卒業。イラストレーター、コラムニスト、中野区観光大使。五反田のコワーキングスペースpaoで週一回開かれるイベント「微学校」の校長としても活動中。テレビっ子として育ち、ネットテレビっ子に成長した。著書に『美大生図鑑』(飛鳥新社)

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