「うちの師匠もせっかちだよな。もう少し待てば人に焼いてもらえるのに、てめぇでてめぇ焼いちまったんだから……」と寂しそうに笑った。“歩く浅草資料館”のような人が書いた本だ。
一方塙は『言い訳 関東芸人はなぜM-1で勝てないのか』(集英社新書)という、M-1への熱い思い、漫才への熱心な研究分析がうかがえる一冊。先週このページのイラストは(相方)土屋の“消しゴムサッカー”という呑気なものだったが、こちら副会長は真面目に東京の漫才の行く末まで考えている。「大阪は漫才界のブラジルである」とか「吉本芸人の王者が多いのは当然」「非関西弁で初めての王者は2004年のアンタッチャブル」などM-1おたくの様に語る。
歴史をさかのぼれば東京言葉、江戸弁で160キロを出していたのはかつてのツービートのたけし。「あの人以来東京人で160キロのしゃべりをした人は高田文夫先生。ナイツの大恩人であり第二の師匠。70過ぎてなお150キロは(今でも)出ていると思います。まさに演芸界の村田兆治です」。ここまで書かれちゃこの本、誉めない訳にはいきません。今の漫才を考えるには一家に二冊は欲しい名著。これでいい?
◆イラスト/佐野文二郎
※週刊ポスト2019年9月13日号