「日本で長期間継続した疫学研究は1961年に始まり現在も続く『久山町研究(*注)』が有名ですが、血圧の変化を長期にわたって追跡した調査はこれまでほとんどありませんでした。
今回の調査が画期的な点は、中年期と高年期における血圧の推移が健康に与える影響を調べたことです。血圧のコントロールは健康長寿に欠かせませんが、今回の調査からは、“どんな人が、どの年代で、どのくらいの数値で血圧をコントロールすべきか”の答えが見えてきます」
【*注/福岡県糟屋郡久山町の約4800人の住民を対象とし、生活習慣病を中心に行なわれている疫学調査】
24年間に及ぶ「血圧の履歴書」からは、「最近、血圧が高いから注意しなければ」といった“常識”だけでは見落としてしまう健康リスクが浮かび上がった。
◆降圧剤の飲みすぎで認知症に
ジョンズ・ホプキンス大の研究チームが主な調査目的としたのは「血圧の変化」と「認知症」の関係だ。
調査では、2011~2013年と2016~2017年の2回に分けて認知機能検査を実施。その結果、高年期に新規に認知症を発症したのは、4761人中516人だった。
前出の5パターンに沿って100人あたりの認知症の発症率を検出すると、こんな結果が出た。
(1)正常→正常:1.31人
(2)正常→高血圧:1.99人
(3)高血圧→高血圧:2.83人
(4)正常→低血圧:2.07人
(5)高血圧→低血圧:4.26人
つまり、高年期に高血圧だった(2)、(3)よりも、(5)の「高血圧だった人が高年期に低血圧になった」パターンが最も認知症リスクが高かったのである。