夏井:ピンと来なかった?
室井:そう、ピンと来なかったんですね。ちょっと自分には合わないかな、と。それで俳句はいいやって思って。でも今日は、先生に見てもらいたくて、先生の本を読んで、旅にちなんだ句をいくつか作ってきました(と、白い巻紙を取り出してテーブルに広げる)。
夏井:え、ホント? あら、すごい。文字も墨で書いてあるじゃないですか!
室井:巻紙は大学時代の恩師の弔辞を読んだ時の余りで、こういう時に使わないでどうするって思って(笑い)。墨で書いた方が雰囲気が出るかなと思ったんですが。
夏井:う~ん、墨で書く人はほとんどいないかな。この「ルゲシ色夢」って何? どう読むの?
室井:先生の本にペンネームを作れって書いてあったので「ムロイシゲル」を逆さ読みにして「ルゲシイロム」に。今朝、即席で作りました。
夏井:なるほど。俳号は出世魚みたいに、どんどん変えられるしね。松山出身の俳人、正岡子規なんか山ほど俳号を持ってたし。
室井:頭から読みますね。
〈室井さんは立ち上がると、巻紙に墨跡も瑞々しい7句を順番に読み上げていく。〉
【ムロイさんが作った俳句】
◆靴脱いで 弁当食べる 秋の空
◆紅葉狩り 三日家空け タマ噛んだ
◆西瓜死す 便り受け取る 苫小牧
◆枕木のリズム うとうと 盆休み
◆運動会 車窓に 届く大歓声
◆秋雨や ポッカリ目覚め 爪を切る
◆芋煮会 山形弁に くすぐられ
〈つられるように夏井さんも立ち上がり『プレバト!!』さながらの辛口添削が始まった。〉
夏井:できてるじゃないですか!
室井:え!? ホントですか?
夏井:うん、大丈夫。充分、大丈夫。ホントです。まず、「靴脱いで」なんていうのは、乗り物の中で足を投げ出してるみたいな、日常からちょっと離れた時の解放感とかリラックス感が伝わってきますね。次の「タマ噛んだ」も面白い(笑い)。ま、この季語の必然性とか言われると、ちょっと弱いかもしれないけど。
室井:ああ、そうなんです。ここは「三日家空け タマ噛んだ」だけが先にできて、季語を入れなきゃいけなかったので、紅葉狩りでいいか、と。
夏井:でも、こういうフレーズは滑稽味があるというか、俳諧味がありますよ。謎はこれ。「西瓜死す 便り受け取る 苫小牧」。スイカは死んだの?
室井:私、釣り好きで、昔、苫小牧でイカ釣りの船に乗る寸前に東京から便りがあったんです。北海道の真っ黒な「でんすけすいか」っていう、いただいた高級スイカが腐ったっていう。1万円ぐらいするスイカなんです。
夏井:えーっ、そしたら、「死す」だけじゃ足りないかもしれない。擬人化っていうのは結構難しいんだけど、これはこれで面白いですね。食べるのを楽しみにしていたのに、それが潰えた無念がよく出てる。
「枕木の リズムうとうと 盆休み」は、枕木のリズムで寝始めるっていう素材はわりとあると言えばあるけど、「盆休み」でちゃんと田舎に帰ろうとしているのが分かりますね。いちばん凡人なのは「運動会 車窓に届く 大歓声」。これはよくみんなが書くの。運動会の声が聞こえてくるって。
室井:ああ、やっぱりかぁ(と悔しそうな顔)。