洪門は秘密結社のなかでも知名度が高く、国際的な広がりも持っている。他の呼称は「天地会」や「洪幇」。さらに英語名として「チャイニーズ・フリーメイソン」を自称しているが、イギリス発祥の秘密結社フリーメイソンとの間に組織的なつながりはない。
「なんと。洪門を知っているとは感心だ。往年のゴールド・ラッシュの金採掘も大陸横断鉄道の建設も、実はすべて洪門が協力した。洪門はカナダ社会に貢献してきたのだ」
ヒルバートたちの表情が一気に和らいだ。どうやら事前の想像以上に中華会館と洪門の関係は近かったらしい。
「そこで、もしも可能ならば洪門の関係者の方をご紹介いただきたいんですが……」
「紹介するまでもないな。わし自身が洪門だ」
「え?」
「名刺の裏を見ろ。わしこそがカナダ洪門バンクーバー支部の前主任委員(=リーダー)だ。あと、お前の隣りに座っている中華会館秘書長のマイケル・ワン(王元瓏)も洪門の会員だ。こいつはまだ、洪門に入ったばかりだがな」
中華会館と洪門につながりがあるどころではなかった。なんとカナダ西海岸の華人コミュニティを仕切る中華会館のトップであるヒルバート自身が、秘密結社・洪門の大幹部。中国語でいう洪門大哥(ホンメンダーグー)だったのである。
*『もっとさいはての中国』(小学館新書)を一部抜粋のうえ再構成。文中敬称略。同書刊行イベント「中国ワンダーランドに魅せられて」(安田峰俊氏×星野博美氏対談)が10月13日に旭屋書店池袋店にて行われます。(詳細→https://www.asahiya.com/shopnews/)