◆男系派の心理
ルオフ:男系派のオピニオンリーダーである八木秀次さん(麗澤大学教授)は、『WiLL』2019年8月号で、僕の本を批判していました。そのおかげで僕の本はアマゾンのランキングがずいぶん上がったので少し感謝していますけど(笑)。彼の批判の根本にあるのは、僕が日本の天皇を相対化していることですね。ほかの国の王室と日本の天皇を比較して研究することがおかしいと考えているのでしょう。天皇は日本独自のものだから、世界の中に比べられるものなどない、と。
小林:日本の皇室は唯一無比の存在だから、グローバルな脈絡で相対化するのは間違ってると言いたいわけでしょ。日本の皇室がいちばんすごいんだ、と。でも、そんなこと言うのは赤ちゃんみたいなものですよ(笑)。それぞれの国にそれぞれの歴史があって、それぞれの王室があるんだから。どんな国にも、独自の歴史と独自の尊厳があるんです。
ここで男系派の心理を説明すると、彼らは日本の保守派は一神教を発見しちゃったんですよ。もともと日本には一神教がないから、常に個が不安定になってしまう。神と自分が一対一の関係を結ぶ一神教のほうが、個は確立しやすいんですね。だから日本人は、どこかで一神教をつくりたいという気持ちがある。それはものすごく心地よいんですよ。何も迷いがなくなっちゃって、思考停止できるから。男系もそれなんですよ。神武天皇から男系だけでずっと続いてきたというのは、彼らが天皇の原理としてついに発見した一神教なんです。つまり、天皇への敬意みたいなものはないんですね。単に男系であることを生物学的に示すY染色体が大事で、それを崇める一神教の原理主義ができあがってしまった。
しかし本来、原理主義は一神教の社会にしかできないんですよ。イスラム国もそうでしょ。日本には一神教はないから、原理主義は馴染まない。八百万の神がいる日本は、誰でも彼でも神になってしまえる相対主義の社会。それを天照大神という女性神がゆるやか~にまとめているのが日本の国柄なんです。
ルオフ:最初から女性ですね(笑)。
小林:そうなんです。女性をいちばん上に置いて、ゆるやか~にまとめてもらうのが日本はいちばんいいの。邪馬台国もいちばん上は卑弥呼でしょ。その卑弥呼が死んだ後に男性が王になったら、内乱が起きてしまったんですよ。だから次はまた壱与(いよ)という女性を王にしたら、国がまとまった。魏志倭人伝にそういう歴史が書かれています。日本はそういう国だから、一神教をつくっちゃダメ。明治の国家神道も失敗だったし、男系という一神教も日本の国柄には合わないんです。