日本では伊勢湾台風を教訓として災害対策基本法が制定(1961年)されたほか、自治体レベルでは堤防の整備、避難体制の確立、具体的な備えについての啓発が、気象庁やメディアでは詳細な情報の提示などが積極的に行なわれるようになった。だが、自然の脅威はときに人間の予測をはるかに上回ることがある。
伊勢湾台風から60年を経過した現在でも、高潮が想定外の高さに及べば大規模な被害が出ても不思議ではない。今回は干潮と満潮の差が大きい大潮の時期に重なり、台風が接近する時間帯に満潮時刻になると見られること、気圧が低く海面が吸い上げられることから、伊勢湾台風でも大きな被害を出した高潮が懸念されており、注意が必要だ。
もし高潮に襲われ街中が水浸しになると、稀にトイレや風呂場、洗濯機の排水口など思わぬ場所から下水が噴き出してくることもあるが、国土交通省はこれへの備えとして、45リットル程度のビニール袋に水を入れた「土嚢」ならぬ「水嚢」を作るよう勧めている。袋を二重にして、半分程度まで水を入れてから、残りの空気を抜いて中袋を固く締める。外袋は紐できつく縛る。これらをあらかじめ排水溝の上にセッティングしておけば逆流を防げるとのことである。「備えあれば憂いなし」とはとはいかないまでも、「人事を尽くして天命を待つ」姿勢もまた必要であろう。
【プロフィール】しまざき・すすむ/1963年、東京生まれ。歴史作家。立教大学文学部史学科卒。旅行代理店勤務、歴史雑誌の編集を経て現在は作家として活動している。著書に『ざんねんな日本史』(小学館新書)、『いっきにわかる! 世界史のミカタ』(辰巳出版)、『いっきに読める史記』(PHPエディターズ・グループ)など多数。