国内

ふるさと納税「脂身騒動」トラブル再発の可能性は少なくない

宮崎県美郷町は返礼品についてお詫びした(公式サイトより)

 お金にまつわる問題はこじれるとややこしい。透明性が大事だ。しかし、制度の運用にはトラブルがつきもの……。食文化に詳しい編集・ライターの松浦達也氏が指摘する。

 * * *
 このところ、“ふるさと納税一家”の周辺がやたらとにぎやかだ。2008年に導入されたふるさと納税制度だが、それから10年以上が経った今月、報道やSNS上で立て続けにふるさと納税にまつわる批判や不満が噴出した。

 そもそものきっかけは、ふるさと納税の制度改正だった。和牛やギフト券など加熱する高級返礼品競争を問題視した総務省は3月末、全国の自治体に「返礼品は地場産品に限る」という基準を通知。新制度では、それまでなりふり構わず多額の寄付を集めた大阪府泉佐野市などの自治体は除外された。つまり6月以降、泉佐野などに寄付をしても税制上の優遇は受けられなくなったのだ。

 ところが9月、総務省所管の第三者機関、「国地方係争処理委員会(係争委)」が「待った」をかけた。泉佐野市などの除外が法律の認める範囲を越える可能性があると、総務省に再検討を勧告したのだ。しかし国や総務省は耳を貸さない。

 法的に見直しが必要と言われたのに「不当というべき寄付金の募集を行った地方団体が、他と同じ扱いとなれば、国民の制度に対する適切な理解も得られない」「森の泉が自由に飲めるからと言って、一人で全部飲んで枯れてしまってもいいのか」(朝日新聞10月4日付より抜粋)と法ではなく、情で総務省は勧告を拒絶した。

 所管する係争委から法的な指摘を受けたのに、感情的になって拒絶する総務省の姿は、昭和のホームドラマで妻や子どもから「パパの言っていることはおかしい」となじられる父親のようである。

 各メディアも総務省の姿勢には手厳しかった。9月4日、産経新聞は「総務省は襟正し見直しを」という社説を掲載。「事実上の国の敗北と言えよう」から始まるこの日の社説では「制度設計や見直しがいいかげんでありながら、上意下達式に自治体を従わせるのならば、驕りと言われても仕方あるまい」と総務省を痛烈に批判した。

 ただ、総務省や国の気持ちもわからないでもない。ふるさと納税は寄付金控除のひとつの形である。原資が変わらない以上、得をする自治体があるということは、必ず損をする自治体が出てくる。「小遣いは自分で稼げ」と言いつつ、言外に「でも他の兄弟のことも考えてくれ」と望む父親としては、国内の他の自治体にゼロサム・ゲームを吹っかけ、自分さえ良ければいいと寄付金を囲い込みに行く。そんな泉佐野のやり口に好感を持てないのは当然だろう。だが感情論はともかく、地方自治体という兄弟間でのゼロサムを煽るようなふるさと納税の仕組みを構築・運用してきたのは総務省自身である。

 地方分権を推進する立場の総務省としては、5月に除外告知を出す前に自治体との妥協点を探るタイミングはあったはずだし、内閣改造が行われた9月の段階でも舵の切り直しはできたろう。新制度の基準に過去の行状がそぐわないからといって、感情任せに見せしめのように晒しても事態が好転するはずがない。

 泉佐野市のふるさと納税除外継続が決定した直後、10月7日には各紙が一斉に社説で総務省を批判した。

「ふるさと納税 地方分権の理念はどこへ」(朝日)
「泉佐野市の除外継続、制度維持ありきの強弁だ」(毎日)
「勧告に向き合わない総務省」(日経)

 こうした報道を受けても、現在までのところ国や総務省に軟化の兆しは見られない。両者の対立は11月に、法廷へと持ち込まれる可能性が高い。

関連キーワード

関連記事

トピックス

降谷健志の不倫離婚から1年半
《降谷健志の不倫離婚から1年半の現在》MEGUMIが「古谷姓」を名乗り続ける理由、「役者の仕事が無く悩んでいた時期に…」グラドルからブルーリボン女優への転身
NEWSポストセブン
警視庁がオンラインカジノ店から押収したパソコンなど(時事通信フォト)
《従業員や客ら12人現行犯逮捕》摘発された店舗型オンカジ かつての利用者が語った「店舗型であれば”安心”だと思った」理由とは?
NEWSポストセブン
橋本環奈と中川大志が結婚へ
《橋本環奈と中川大志が結婚へ》破局説流れるなかでのプロポーズに「涙のYES」 “3億円マンション”で育んだ居心地の良い暮らし
NEWSポストセブン
10年に及ぶ山口組分裂抗争は終結したが…(司忍組長。時事通信フォト)
【全国のヤクザが司忍組長に暑中見舞い】六代目山口組が進める「平和共存外交」の全貌 抗争終結宣言も駅には多数の警官が厳重警戒
NEWSポストセブン
遠野なぎこ(本人のインスタグラムより)
《前所属事務所代表も困惑》遠野なぎこの安否がわからない…「親族にも電話が繋がらない」「警察から連絡はない」遺体が発見された部屋は「近いうちに特殊清掃が入る予定」
NEWSポストセブン
放送作家でコラムニストの山田美保子さんが、さまざまな障壁を乗り越えてきた女性たちについて綴る
《佐々木希が渡部建の騒動への思いをストレートに吐露》安達祐実、梅宮アンナ、加藤綾菜…いろいろあっても流されず、自分で選択してきた女性たちの強さ
女性セブン
看護師不足が叫ばれている(イメージ)
深刻化する“若手医師の外科離れ”で加速する「医療崩壊」の現実 「がん手術が半年待ち」「今までは助かっていた命も助からなくなる」
NEWSポストセブン
(イメージ、GFdays/イメージマート)
《「歌舞伎町弁護士」が見た恐怖事例》「1億5000万円を食い物に」地主の息子がガールズバーで盛られた「睡眠薬入りカクテル」
NEWSポストセブン
キール・スターマー首相に声を荒げたイーロン・マスク氏(時事通信フォト)
《英国で社会問題化》疑似恋愛で身体を支配、推定70人以上の男が虐待…少女への組織的性犯罪“グルーミング・ギャング”が野放しにされてきたワケ「人種間の緊張を避けたいと捜査に及び腰に」
NEWSポストセブン
和久井学被告が抱えていた恐ろしいほどの“復讐心”
【新宿タワマン殺人】和久井被告(52)「バイアグラと催涙スプレーを用意していた…」キャバクラ店経営の被害女性をメッタ刺しにした“悪質な復讐心”【求刑懲役17年】
NEWSポストセブン
女優・遠野なぎこの自宅マンションから身元不明の遺体が見つかってから1週間が経った(右・ブログより)
《上の部屋からロープが垂れ下がり…》遠野なぎこ、マンション住民が証言「近日中に特殊清掃が入る」遺体発見現場のポストは“パンパン”のまま 1週間経つも身元が発表されない理由
NEWSポストセブン
幼少の頃から、愛子さまにとって「世界平和」は身近で壮大な願い(2025年6月、沖縄県・那覇市。撮影/JMPA)
《愛子さまが11月にご訪問》ラオスでの日本人男性による児童買春について現地日本大使館が厳しく警告「日本警察は積極的な事件化に努めている」 
女性セブン