第六夜には悲恋物語の『たちきり』を演じた。談春は若旦那が蔵住まいを始めて五十日目に両親と番頭が会話をする場面を創作、ここで番頭は「手紙が百日続いたら夫婦にさせてあげたい」と両親に訴える。

 百日後、芸者置屋に来た若旦那に女将が小糸の死を告げる。女将の実の娘だと強調する演出は珍しい。

「優しい子でした。若旦那と出会えて幸せだったと思います。誰も悪くありません。若旦那と小糸は悪縁だったんです。この家を一歩出たら小糸のことはきれいに忘れて生きてください。小糸には私がいます」

 談春ならではの台詞だ。

 さだまさしのアンサーソングは、すれ違ってしまった相手を今なお想う『かささぎ』。『たちきり』の余韻と響き合って切なく胸に迫る。三本締めの後、異例のカーテンコールも。三十五周年記念公演の千秋楽に相応しい、感動の一夜だった。

●ひろせ・かずお/1960年生まれ。東京大学工学部卒。音楽誌『BURRN!』編集長。1970年代からの落語ファンで、ほぼ毎日ナマの高座に接している。『現代落語の基礎知識』『噺家のはなし』『噺は生きている』など著書多数。

※週刊ポスト2019年10月18・25日号

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