問題なのは、何といっても電力だ。タワマンは電力が安定的に供給されることを大前提として存在し、機能する住形態だ。電力の供給に問題が発生すると、たちまち居住困難な鉄筋コンクリートの箱と化す。
今回、台風19号の襲来によって武蔵小杉にある某タワーマンションでは、地下にあった電気室が機能不全となった。電力の供給は途絶えていないが、それを建物内に送電できなくなった。つまり、建物全体が停電と同じ状態に陥ったのだ。
当然、エレベーターは使えない。各住戸内でもエアコンや照明はもちろん、電気に頼るあらゆる機能は停止する。有線のインターネットも使えなくなったそうだ。
さらに、これはタワマンの構造に起因する問題ではないと思われるが、トイレの排水もできなくなった。タワマンの上水道も電力が供給されることを前提としている。電力によってポンプを稼働させ、水道水を上層階まで押し上げているのだ。そのため、水道が止まれば飲料水だけでなく、トイレも流せなくなる。
被害を受けたタワマンでは、各フロアには簡易トイレが設置されたというが、通常通りの排水ができなくなれば、そのタワマンには実質的に住めなくなる。
もっとも、簡易式のトイレを使いながらシャワーも浴びられない暮らしを、現代の日本人が何日も我慢できるとは思えない。特に、それまでは快適なタワマン生活を送ってきた人々であるなら、なおさらであろう。多くの人が近隣のホテルや知り合いの住まいへ避難していたという。
2011年3月11日に発生した東日本大震災では、広範囲に停電が発生した。被災エリアにあったある8階建てのマンションでは、居住者全員が敷地内に設置されたテント内で、お互いに励まし合いながら電力供給が回復するまでの数日を過ごしたという。電気が来ないマンションというのは、それほどまでに過ごしにくい空間であることを理解すべきである。
今回、台風19号は不意にやってきたわけではない。数日前からその進路や勢力も予報によって伝えられていた。しかし、多摩川の氾濫までは想定できなかった。特に、武蔵小杉のようなタワマンが林立する現代都市が浸水するとは、ほとんどの人にとっては予想外であったに違いない。
さらに言えば、タワマンの住民にとっては、まさか「電気が使えない」というのは想定外であったはずだ。