都合がよい部分だけを切り取ったドラレコ映像で炎上させられた(イメージ)
それでも、である。Yさんの会社の運転手側にも悪いところがないわけではない。ネット上に上がっている動画だけを見れば、危険な運転をしているように見える。
「それは間違いありませんから、一応警察にも話しました。ネットでも話題になっていると。その上で、うちのトラックのドラレコも提出しました」(Yさん)
結局、ネット上で「被害者」とされた人物からの被害届もなく、警察からは「今後注意してください」と言われただけ。件の動画はいつの間にか消され、結局どこの誰が、あのような形で恣意的に切り取った映像をネット上にあげたのか、結局判然としないままだ。
「若い社員が、反論しましょう、こっちの動画もネットにあげようと言ってきました。取引先からも問い合わせがあり、会社の評判にも関わることですから。しかし、警察に言っても弁護士に言っても、静観した方が良いと言われました。あおり運転が話題になっている昨今であれば、そう言った反論もできたのかもしれませんが、当時はうちの会社が一方的に有る事無い事言われるだけで…。いたずら電話に、事実を伝えようと努力もしました。でもわかってもらえなかった」(Yさん)
騒動から一週間ほどで、いたずら電話が鳴ることもなくなったが、SNS上には今も動画が転載され「埼玉のY運送」「危険運転」などと、事情をよく知らない人による書き込みが残る。
事実を記録する為に便利なドライブレコーダーではあるが、映っているのは「見える範囲」の事実であるということにも留意しておかなければならない。印象の強い映像であればあるほど、ネット上で爆発的に拡散され、冷静な議論がなされないまま、映像からだけ読み取れる情報により善と悪が判断され、悪とされた側が猛烈にバッシングを受ける。
これほどの被害に遭ったのなら、転載も含めて民事で追及するべきだという考え方もあるだろう。だが、ネットで起きた権利侵害に関わる争いには、莫大な時間と労力が必要だ。Yさんのように日々の仕事に忙殺されている人にさらに、と求めるのは酷なことだ。だからといって、悪意ある人間が好き放題に野放しにされる現状はおかしい。
実際にこのような動画をアップロードし、拡散し、はては事業所へいたずら電話する行為はすべて、名誉毀損や威力業務妨害などの罪に問われる可能性が高いことを承知しておくべきだ。事実、あおり運転事案に端を発した名誉毀損、業務妨害によって、ネットユーザーが訴えられるケースが報道されたことも記憶に新しい。ネットで拡散されているのを見て、正しいこと善いことだと思い込んで安易に誰かを非難し攻撃することは、正義のつもりの自分をも危険にさらすことになる。
Yさんのように、映像を恣意的に切り取る人物の悪意にいつ襲われるかもわからない。事実を映像として残しておくことも重要だが、まずは他人に迷惑のかからないような安全運転を心がけ、万一巻き込まれたら、自身で処理しようとせず、すぐに警察に通報する。これ以外の方法はないのだ。