第25回参議院選挙で議席のゆくえや反響をPCで確かめるN国・立花孝志党首(中央)
もっとも重要なことは、世の中にはN国の存在や実態を知らない人たちがまだまだ数多くいるという現実だ。だからN国は悪目立ちしてでも売名行為に勤しむ。それが新興勢力であるN国の生命線だとよく知っているのだ。
所属議員の問題発言や問題行動などの実態を知っている人からの批判が多いN国だが、それでも選挙に候補者を立て続ける限り、当選する可能性は「ゼロ」ではない。むしろ知名度が高まるにつれ、当選可能性は高まっている。真面目な人がいくら正論を述べてN国を批判しても、候補者を立てない勢力が選挙で勝つ可能性はゼロだからだ。
すべての有権者は、年齢、性別、学歴、年収に関わらず、誰もが同じ重さの一票を持つことを再認識したほうがいい。政党や候補者の実態を熟知して投じる一票も、単なるイメージで投じる一票も同じ一票だ。だからこそ、数年に1度しかない選挙では、十分に情報収集をして後悔しない投票行動をするべきだ。
これはN国に限った話ではない。日本は増税を推進する党を選挙で与党にしておきながら、選挙直後の世論調査で7割近い国民が増税反対と答えるような国である。こんな奇妙で滑稽な光景があるだろうか。
◆NHKがある限り、N国は不滅である
N国とは「NHKのスクランブル放送化の実現」を最大の公約に掲げる政党である。かつての所属議員や支持者の中には「NHKの放送内容を糾す団体」と勘違いしていた者も見受けられるが、それは大きな間違いだ。N国はNHKの放送内容には全く関知しない。N国が問題にしているのは、NHKの受信料制度や受信契約をめぐっておきる、NHKやNHK集金人とのトラブルだけである。「NHKをぶっ壊す!」はたしかにキャッチーなフレーズで子どもにも大人気だが、N国の実態を正確に表してはいない。N国の活動がNHKの改革に寄与する可能性はあるが、「すぐにNHKがぶっ壊れる」と信じている人は、考えを改めたほうがいいだろう。
そんなN国の躍進を支えてきたのは、世間に根強くある「NHKへの反感」だ。これはN国が訴える受信料制度への不満だけではなく、ぼんやりとした反感も含む。N国はその存在を知っているからこそ、政見放送でしきりにNHKに対する憎悪の念を煽ってきた。
その結果、7月の参院選でN国が候補者を立てた37選挙区のうち、福井県、岐阜県、群馬県では得票率が7%を超えた(7.68%、7.47%、7.43%)。もっとも低い大阪府は1.24%だったが、それ以外ではすべて2%を超え、選挙区での得票率は3.02%になった。つまり、全国の「反NHK票」を掘り起こし、受け皿となっているのだ。しかし、N国に投票した人たちが、本当にN国の主張や実態を知った上で投票したのかどうかは知る由もない。
N国の立花孝志党首は、これまでに何度も「NHK問題以外はやらない」と公言してきている。最近になって「インターネットを使った直接民主制の導入」も謳い始めたが、まだ実際の運用レベルには至っていない。NHKの集金人が来なくなると主張する「NHK撃退シール」を配布する活動や、集金人の対応に困った人からの相談を受ける電話相談は結党当初から続いており、参院選後には党独自のコールセンターも開設された。しかし、それ以外の政治的実力はまったくの未知数である。
有権者が解決を求める政治課題は、NHKの受信料問題だけではない。そのため、今後もN国が巨大な勢力になることは考えにくい。しかし、世の中に一定数存在する「反NHK票」の受け皿が新たに現れない限り、N国が議席を取り続ける可能性はなくならない。