そのためには、作品を理解して計算する力が求められる。一見すると感覚で芝居しているように見える役者も、裏には細かい計算が働いている。火野正平がまさにそうだった。
テレビの連続ドラマでレギュラーの脇役を演じる際の心構えを火野は次のように語る。
「十一本のシリーズだったら一本目と六本目では演じ方は違うんだ。一話目は顔見世だから、お客さんの興味を引くためにはあまり出しゃばっちゃいけない。でも六話目になると『お客さんも飽きているだろうから、じゃあ、こうしよう』とか。トータルで考えて一つの作品だと思っているから」
こうした脇役としての矜持を全うするため、彼らは日常からさまざまに心がけている。前田吟も、そんな一人だった。
「映画は主役のものなんだから。脇役は添える係。人間として上手く消えてないといけない。今でも、家で自分で化粧して頭も染めてから電車に乗ります。それで『変なオジサンがいる』と思われたら、実際の画面でも溶け込んでないということ」
これからも素敵な矜持と出会い、そしてご紹介していきたい。
●かすが・たいち/1977年、東京都生まれ。主な著書に『天才 勝新太郎』『鬼才 五社英雄の生涯』(ともに文藝春秋)、『なぜ時代劇は滅びるのか』(新潮社)など。本連載をまとめた『すべての道は役者に通ず』(小学館)が発売中。
※週刊ポスト2019年11月8・15日号