しかし、いくらトランプ大統領が抵抗しても、下院は民主党が多数を占めているので、過半数で可能な弾劾訴追の発議は避けられないだろう。過去にアメリカで弾劾訴追のプロセスに入った大統領は1868年のアンドリュー・ジョンソン、1974年のリチャード・ニクソン、1999年のビル・クリントンの3人だ。このうち「ウォーターゲート事件」(民主党本部で起きた盗聴・侵入事件)のニクソンは、上院の弾劾裁判が始まる前に自ら辞任した。
ただし、ニクソン元大統領の場合は下院でも上院でも与党・共和党が少数だった上、共和党内部の支持も少なかったため、上院で3分の2の賛成が必要な弾劾決議の可決が確実な状況だった。一方、トランプ大統領の場合は、仮に下院で弾劾訴追が発議されたとしても、上院は共和党が多数を握っているので、20人くらいの共和党議員が寝返らない限り、弾劾決議の可決は難しい。
とはいえ、今回はトランプ大統領が直接、ゼレンスキー大統領に圧力をかけていることが明らかなため、アメリカ国民はロシア疑惑の時よりも批判的だ。たとえば『ワシントン・ポスト』が10月8日に発表した世論調査によると、弾劾調査に対する賛成は58%に達している。
それでも、彼の辞書に「辞任」という文字はないので、仮に共和党内から対抗馬が出てきても得意のツイッターでこき下ろし、最後まで徹底抗戦すると予想される。結局、トランプ大統領が自ら辞任しない限り、共和党内から他の候補者が擁立される可能性は低いと思う。となると、トランプ大統領再選路線しか当面の選択肢はないだろうが、対する民主党も大統領候補選びで迷走を続けている。
これまでトップを走っていたバイデン前副大統領はウクライナ疑惑で自身の不正行為を問われ、トランプ大統領と共倒れする“ダブルノックアウト状態”になりつつある。息子のハンター氏も、不正はしてないが親が副大統領でなかったらウクライナでの高給優遇はなかっただろう、と認めている。
また、2位争いを続けていたバーニー・サンダース上院議員は、心筋梗塞で倒れて健康状態が不安視されている。