ビニールハウス内を流れる温泉水で、バナナの好む高温多湿の環境を実現

 苗はいずれも沖縄から取り寄せた。そうはいっても、バナナを栽培するノウハウは、雪深い地元にあるはずもない。担当する片岡さんも、兵庫・神戸から地域おこし協力隊のメンバーとして山形に移り住み、地域の魅力を情報発信する活動をしていたそうで、もともと農業を専門にしていたわけではない。

 沖縄のバナナ農家から技術指導を受けながら、手探りでの栽培が始まった。ネックとなったのは、やはり寒さ。しかも、山間地の戸沢村は冬になると積雪も多く、ハウスの周辺では1m50cmも積もるという。2017年1月、爆弾低気圧が北日本を襲った際には、植えたばかりの苗が仮死状態になったこともあった。

「バナナは15℃が成育できるかどうかのギリギリの温度で、10℃以下になると休眠するといわれています。しかも、その温度まで一気に下がると、死んでしまうのです。温度管理には細心の注意が必要な植物です」(片岡さん・以下同)

 取材で訪れた10月中旬は、外の気温が20℃ほどあり、ハウスの室温も31℃あったが、冬は氷点下まで下がるこの村で寒さ対策はどうやっているのだろうか。

 まず、ボイラーを焚いて内部を暖め、ハウスを覆うビニールを二重にして少しでも保温性を高める。さらに、ボイラーと併用して隣の温泉からひいてきた温泉水をハウスのなかに張り巡らせた溝に流す。これによって内部の温度を高めるだけでなく、バナナが好む多湿の環境をつくり出している。そうした努力により北限のバナナの栽培が実現した。

◆輸入物と差別化、皮ごと食べても大丈夫

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