国内

校則撤廃中学校の校長 「教員らしく振る舞う必要ない」

1日1回は校内を回るのが校長・西郷さんの日課。生徒の些細な変化にも気づきやすくなるという(撮影/浅野剛)

 東京都世田谷区立桜丘中学校では、校則の全廃による服装や髪形の自由化のほか、チャイムは鳴らず、何時に登校してもいい。今年度から定期テストも廃止され、代わりに10点ないし20点の小テストを積み重ねる形式に切り替えられた。スマートフォン(スマホ)やタブレットの持ち込みが許可され、授業中も教室外での自習が認められている──これら画期的な学校改革は大きな注目を集め、新聞や雑誌、テレビでも取り上げられてきた。

 校長の西郷孝彦さん(65才)の初となる著書『校則なくした中学校 たったひとつの校長ルール』には「子育ての参考になった」「こんな先生に教わっていたら、人生が変わっていたかもしれない」などと、大きな反響が寄せられている。

 しかしそうした改革は、決して理論ありきで行ったものではないと西郷さんは言う。

「ルールはただ1つ、“誰もが楽しい3年間を過ごせる学校”にすること。生徒一人ひとりの抱える問題を解決していく上でぶつかった不都合を見直し、取り除いていくうちに、結果そうなったにすぎません」(西郷さん・以下同)

 西郷さんは、この桜丘中学校で校長として10年務めてきた。“ちょっと変わった”、それでいて“楽しい”学校へと生まれ変わったキセキとは、どんなものだったのだろう。

 東京・世田谷──。春には見事な桜並木、夏には木陰のトンネルとなる大通りに面し、大学や区立小学校が隣接する静かな住宅街に桜丘中学校はある。

 3階建ての校舎の廊下を、この日も西郷さんはゆっくりと歩いていく。どんなに忙しくとも1日1回は校内を回り、生徒や授業の様子に目を配るのが日課だ。

「校長先生!」と、生徒たちがうれしそうに駆け寄る。「あれ、髪切った?」「風邪、治ったね」。生徒の小さな変化に気づき、会話が弾む。驚くことに、生徒の恋愛事情にも詳しく、15才が50才年上の校長に恋の相談をする光景も、ここではまったく普通のことだ。

 校長と生徒の交流の場は廊下だけではない。ドアが開きっぱなしの校長室では、一日中生徒が入れ代わり立ち代わりやって来て、悩みごとを相談したり、勉強を教わったり、校長室に置かれたギター片手に熱唱したりもする。

 これほど生徒に慕われる西郷さんだが、教員になった当初は、子どもにどう接したらいいのか、皆目わからなかったというから驚きだ。

◆“教員らしく”より、素で語り合えばいい

 小さい頃から機械いじりが得意だった西郷さんは、上智大学の理工学部に進学。就職はコンピューター関連の企業にと決めていた。

 ところが、1973年に始まったオイルショックのあおりを受け、工学系の採用人数は激減、進路変更をやむなくされた。高校時代に流行った「モーレツからビューティフルへ」というCMのキャッチコピーよろしく、「教員には夏休みがある。きっとビューティフルな生活になるだろう」と、都の教員を目指す。しかし、いざ始まった教員生活は、予想とは別物だった。

関連キーワード

関連記事

トピックス

左:激太り後の水原被告、右:2月6日、懲役刑を言い渡された時の水原被告(左:AFLO、右:時事通信)
《3度目の正直「ついに収監」》水原一平被告と最愛の妻はすでに別居状態か〈私の夢は彼と小さな結婚式を挙げること〉 ペットとの面会に米連邦刑務局は「ノー!ノー!ノー!」
NEWSポストセブン
9月に成年式を控える悠仁さま(2025年4月、茨城県つくば市。撮影/JMPA)
悠仁さまが学園祭にご参加、裏方として“不思議な飲み物”を販売 女性グループからの撮影リクエストにピースサイン、宮内庁関係者は“会いに行ける皇族化”を懸念 
女性セブン
衆院広島5区の支部長に選出された今井健仁氏にトラブル(ホームページより)
【スクープ】自民広島5区新候補、東大卒弁護士が「イカサマM&A事件」で8000万円賠償を命じられていた
週刊ポスト
V9伝説を振り返った長嶋茂雄さんのロングインタビューを再録
【長嶋茂雄さんロングインタビュー特別再録】永久不滅のV9伝説「あの頃は試合をしていても負ける気がしなかった。やっていた本人が言うんだから間違いないよ」
週刊ポスト
“超ミニ丈”のテニスウェア姿を披露した園田選手(本人インスタグラムより)
《けしからん恵体で注目》プロテニス選手・園田彩乃「ほしい物リスト」に並ぶ生々しい高単価商品の数々…初のファンミ価格は強気のお値段
NEWSポストセブン
山尾志桜里氏(=左。時事通信フォト)と望月衣塑子記者
山尾志桜里氏“公認取り消し問題”に望月衣塑子記者が国民民主党・玉木代表を猛批判「自分で出馬を誘っておいて、国民受けが良くないと即切り捨てる」
週刊ポスト
「〈ゆりかご〉出身の全員が、幸せを感じて生きられるのが理想です。」
「自分は捨てられたと思うのは簡単。でも…」赤ちゃんポスト第1号・宮津航一さん(21)が「ゆりかごは《子どもの捨て場所》じゃない」と思う“理由”
NEWSポストセブン
浅草・浅草寺で撮影された台湾人観光客の写真が物議を醸している(Xより)
「私に群がる日本のファンたち…」浅草・台湾人観光客の“#羞恥任務”が物議、ITジャーナリスト解説「炎上も計算の内かもしれません」
NEWSポストセブン
ブラジルを公式訪問されている秋篠宮家の次女・佳子さま(時事通信フォト)
《スヤスヤ寝顔動画で話題の佳子さま》「メイクは引き算くらいがちょうどよいのでは…」ブラジル訪問の“まるでファッションショー”な日替わり衣装、専門家がワンポイントアドバイス【軍地彩弓のファッションNEWS】
NEWSポストセブン
2013年大阪桐蔭の春夏甲子園出場に主力として貢献した福森大翔(本人提供)
【10万人に6例未満のがんと闘う甲子園のスター】絶望を支える妻の献身「私が治すから大丈夫」オリックス・森友哉、元阪神・西岡や岩田も応援
NEWSポストセブン
ヨグマタ相川圭子 ヒマラヤ大聖者の人生相談
ヨグマタ相川圭子 ヒマラヤ大聖者の人生相談【第24回】現在70歳。自分は、人に何かを与えられる存在だったのか…これから私にできることはありますか?
週刊ポスト
「週刊ポスト」本日発売! 食卓を汚染する「危ない輸入冷凍食品」の闇ほか
「週刊ポスト」本日発売! 食卓を汚染する「危ない輸入冷凍食品」の闇ほか
NEWSポストセブン