もともと斜面に作られた棚田だったが、耕作放棄地になって荒れ放題に
秋穂地区のように牧草の種まきをせずとも、草が繁って荒れ放題になったかつての田んぼや畑に、そのまま「レンタカウ」を放牧する地域も少なくない。山間部の棚田など急勾配がある場所では、人がやれば草刈りも重労働だ。それでも、逞しい母牛たちは草を求めて急坂を駆け上がり、ブルドーザーのように隅々まで雑草を平らげてくれる。
農家が病気やけがで入院してしまい、農作業ができない期間だけ田んぼに牛を放牧するケースもあるという。牛の糞が肥料となり、耕作を休んでいた田んぼで再び耕作を行う「復田」も容易なのが、この取り組みの特徴でもある。
山あいの耕作放棄地は山林に接しており、牛の放牧を行うことにより、牛を嫌うイノシシなどの野生動物が集落に近寄らなくなり、畑の農作物を食い荒らされるなどの被害が減った地域も多い。
耕作放棄地の拡大を少しでも食い止めようというこの取り組みは近年、山口県だけでなく、全国に広がっている。
■取材・文/竹中明洋(ジャーナリスト)
■写真/倉田美穂理
■取材協力/全国農業協同組合中央会
※女性セブン2019年12月19日号
牛の放牧が始まると石垣が表れ、景観が回復した(山口市阿東生雲東分、農事組合法人「志濃生の里」の農地