松坂とは公式戦で一度だけ投げ合った。2006年6月24日の西武―ロッテ戦(長野)。ところが、松坂は初回途中に股関節の違和感で降板。久保は7回途中4失点で降板した。特別な感情はなかった。野球は仕事と徹していた。ロッテ、阪神、DeNAを渡り歩いて13年間で通算97勝を挙げている。プロでは十分に「名選手」とされる成績だが、本人の感覚は違う。数字に興味はない。年齢を重ね、一度きりの人生をどう生きるかに価値を重んじるようになった。
「オレはオタクになれる人を尊敬している。世間の目を気にせず、一つのことに何時間も没頭する。自分は野球に限らず何かに没頭した感覚はないから、その部分がうらやましくて。松坂に抱く感情もそういう感覚に近い」
才能の差を見せつけられた松坂が満身創痍の状態で、もがきながら野球を続けている。その姿に心が揺さぶられた。「もう一度、松坂と投げ合いたいか?」と訊くと、意外な答えが返ってきた。
「野球に対する感性や感覚が全然違うから、同じチームで一緒に過ごすことでそういう部分を知りたい。今は目の前のやるべきことを頑張ってほしいと純粋に思う」
人生は十人十色。久保と松坂は全く違うレールの野球人生を歩んでいる。初めて出会った高3春のセンバツから21年の月日が経った。40歳を迎える来季も、2人はマウンドに立つ。
●取材・文/平尾類