スポーツ

元DeNA久保康友のメキシコ野球生活「人生で一番楽しい」

テキーラの製造体験に参加した際の1枚。満面の笑顔が印象的だ

テキーラの製造体験に参加した際の1枚。満面の笑顔が印象的だ

◆タクシーを呼んでも乗るのは3時間後

 2月のキャンプ中には練習後、予約していたはずのタクシーが球場に来なかったことがあった。すでに日が暮れていて、ホテルまでは徒歩で1時間。歩いて帰ろうと考えたが、「命が惜しくないのか」と同僚に止められ、球場での寝泊まりを覚悟した。3時間後にようやくタクシーが来たが、運転手はまったく悪びれる様子はなかった。給料は月に2度の振り込みだが、予定日より遅れるのが当たり前。労働ビザを球団に催促しても全然手続きは進まず、今季は最後までビザが下りないままプレーした。

 日常生活も一筋縄ではいかない。今夏、自宅の冷房が壊れたため、業者に連絡したところ「明日行くよ」と言われたが、来ない。再び連絡すると、「明後日行くよ」と言われたが、やはり来ない。最初の約束から5日後にようやく来たが、その場しのぎの修理だからすぐに壊れる。業者が2か月以上出入りしているうちに、夏は終わっていた。コンビニに行った時は若い女性店員がお釣りをごまかしてきた。日本ではあり得ない出来事の連続にストレスを感じなかったのか。

「意識を変えて現地のルールで生活したら、今まで気づかなかった視点で世界が見える。日々新鮮だったから、人生で一番楽しかったよ。そもそも“常識”って何だろうって。メキシコ人から見れば満員電車に乗って仕事場に行く日本人が“非常識”に見える。メキシコは街に出ればみんな笑顔で、子供が元気に走り回っている。その姿を見て豊かさの意味を考えさせられた」

 久保は「今、野球は趣味」と言い切る。DeNAを2017年に退団してからは、第一線ではプレーしない決断を下した。米国(独立リーグ)、メキシコでのプレーを選択したのは、世界遺産巡りなど各国の文化や慣習を知りたかったから。登板後に球場から6時間かけて移動して世界遺産を見ることも。マヤ文明の遺跡のチチェン・イッツァ、古代都市のテオティワカン、テキーラの製造体験……メキシコで撮った写真は、満面の笑みで写っているものばかりだ。

「毎日色々なことが起こるので覚えきれない」という久保はメキシコに着いてから、人生で初めて日記をつけるようになった。書き出した当初は時間にルーズなメキシコのリズムにイラつくこともあったが、2冊目になると、「5時間待った」と書いてあるのみ。慣れは恐ろしいもので、すっかりなじんでいた。試合中に髪を切っていたら、同僚のマニー・アコスタ(元巨人)に「おい、ゲーム中だぞ」と注意されたことも。「あっ、これはダメなんかって。ボーダーラインを試す日々やね」と笑う。日記には、「今日も生きていてよかった。毎日思う」という一文も。悲壮感ではなく、生きている喜びを実感して綴った。今後はどうするのだろうか。

「来年もメキシコか、あるいはドミニカあたりかな。イタリア、ドイツ、フランスとかヨーロッパでもプレーしたい。世界中の色々な国の文化を知りたくてこういう生活を送っているから辞める理由がない。50歳になっても野球はやっとるんちゃうか?」

 引退の2文字はない。常識から解き放たれ、今後も世界各地を旅する。野球と共に。

●取材・文/平尾類

関連キーワード

関連記事

トピックス

記者が発行した卒業証明書と田久保市長(右/時事通信)
《偽造or本物で議論噴出》“黄ばんだ紙”に3つの朱肉…田久保真紀・伊東市長 が見せていた“卒業証書らしき書類”のナゾ
NEWSポストセブン
解散を発表したTOKIO
《国分太一コンプラ違反で解散のTOKIO》山田美保子さんが31年間の活動を振り返る「語り尽くせぬ思い出と感謝がありました」
NEWSポストセブン
詐称疑惑の渦中にある静岡県伊東市の田久保眞紀市長(HP/Xより)
田久保眞紀市長の学歴詐称疑惑 伊東市民から出る怒りと呆れ「高卒だっていい、嘘つかなきゃいいんだよ」「これ以上地元が笑いものにされるのは勘弁」
NEWSポストセブン
遠野なぎこ(本人のインスタグラムより)
《女優・遠野なぎこのマンションで遺体発見》近隣住民は「強烈な消毒液の匂いが漂ってきた」「ポストが郵便物でパンパンで」…関係者は「本人と連絡が取れていない」
NEWSポストセブン
JESEA主席研究員兼最高技術責任者で中国人研究者の郭広猛博士
【MEGA地震予測・異常変動全国MAP】「箱根で見られた“急激に隆起”の兆候」「根室半島から釧路を含む広範囲で大きく沈降」…5つの警戒ゾーン
週刊ポスト
盟友である鈴木容疑者(左・時事通信)への想いを語ったマツコ
《オンカジ賭博で逮捕のフジ・鈴木容疑者》「善貴は本当の大バカ者よ」マツコ・デラックスが語った“盟友への想い”「借金返済できたと思ってた…」
NEWSポストセブン
モンゴルを訪問される予定の雅子さま(撮影/JMPA)
雅子さま、「灼熱のモンゴル8日間」断行のご覚悟 主治医とともに18年ぶりの雪辱、現地では角界のヒーローたちがお出迎えか 
女性セブン
米田
《チューハイ2本を万引きで逮捕された球界“レジェンド”が独占告白》「スリルがあったね」「棚に返せなかった…」米田哲也氏が明かした当日の心境
週刊ポスト
佐々木希と渡部建
《六本木ヒルズ・多目的トイレ5年後の現在》佐々木希が覚悟の不倫振り返り…“復活”目前の渡部建が世間を震撼させた“現場”の動線
NEWSポストセブン
東川千愛礼(ちあら・19)さんの知人らからあがる悲しみの声。安藤陸人容疑者(20)の動機はまだわからないままだ
「『20歳になったらまた会おうね』って約束したのに…」“活発で愛される女性”だった東川千愛礼さんの“変わらぬ人物像”と安藤陸人容疑者の「異変」《豊田市19歳女性殺害》
NEWSポストセブン
たつき諒著『私が見た未来 完全版』と角氏
《7月5日大災害説に気象庁もデマ認定》太陽フレア最大化、ポピ族の隕石予言まで…オカルト研究家が強調する“その日”の冷静な過ごし方「ぜひ、予言が外れる選択肢を残してほしい」
NEWSポストセブン
大阪・関西万博で、あられもない姿をする女性インフルエンサーが現れた(Xより)
《万博会場で赤い下着で迷惑行為か》「セクシーポーズのカンガルー、発見っ」女性インフルエンサーの行為が世界中に発信 協会は「投稿を認識していない」
NEWSポストセブン