スポーツ

箱根駅伝「花の2区」走者が見た景色は? 名選手が振り返る

箱根駅伝、「2区」名選手が回想(時事通信フォト)

 青山学院大学の2年ぶり5回目の総合優勝で幕を閉じた2020年の箱根駅伝。「花の2区」では11年ぶりの驚異の区間新記録がでるなど、波乱も多い大会だった。ただ「襷をつないで走る」というシンプルな競技に、なぜこれほどまでに感情を揺さぶるドラマが生まれるのか。歴代の名走者が箱根駅伝往路を振り返る──。

 大晦日と比べると、ただ年が変わっただけなのに、なぜか正月の朝の空気は澄んでいて新鮮な香りがする。その中に静かな興奮を混ぜ合わせ、1月2日早朝8時ちょうど、東京・大手町の読売新聞社前の空気は一瞬だけ、しんと静まりかえる。

 号砲が鳴る。2日間にわたる箱根路の熱戦が始まった。私たち観客にとってみれば毎年の正月の風物詩だ。だが、母校の襷をかけて駆け抜ける選手たちにとっては、二度とない青春を懸けた最高の舞台。そこには、彼らにしか見えない景色がある。

「スタートして2kmを過ぎると、もうそこからは“一人旅”でした。1区の役割は先頭集団から大きく離されず、チームに“流れ”をつくることです。レースプランとしては、最初から飛び出すつもりはなかったんです。でも、ふと振り返ると誰もいない。『後ろが来ないなら、自分のペースで行っちゃえ』と腹を括りました」

 佐藤悠基(日清食品グループ、33才)はそう振り返る。2007年、東海大2年生だった佐藤は、田町から品川を越え、神奈川方面へ。独走する佐藤は、言い様のない「心地よさ」を感じていたという。

「体調がかなりよかったので、周りに合わせるよりも、自分のペースで行く方が楽に走れたんです。自分でも驚くほど、ほかの選手のことはまったく気にならなかった。自分のリズムですごく気持ちよく走っていました」

 16km付近でケイレンを起こしたが、不思議と焦りはなかった。巧みに走り方を変更し、残り4kmも快走。この時出した区間新記録(以下、区間新)はいまだに破られていない。

 各校がエースを送り出す「花の2区」は23.1kmと距離が長く、中盤13km過ぎからの権太坂、ラスト3kmのアップダウンが難所とされる。

 2区を3度走った「レジェンド」が早稲田大の渡辺康幸(住友電工陸上競技部監督、46才)だ。3年時の1995年大会では山梨学院大のケニア人留学生・マヤカとの「平成の名勝負」を制し、自身の記録を塗り替える区間新を樹立した。

「下級生の頃は余裕がなかったのですが、上級生になるにつれ、沿道の声援を聞きながら記録を狙えるようになりました。それでも、3年時のレース後半は限界まで自分を追い込んだので、走っている時の記憶がほとんどありません」(渡辺)

 思わぬスタートが待っていたのは、東海大の村澤明伸(日清食品グループ、28才)。2011年大会で2区を任された村澤は、1区走者の不調によって最後方20位で襷を受けた。

「襷を受け取る時はさすがに『なんだ、最下位か』とびっくりしましたが、走り出した途端に気にならなくなりました。前にポンポンと人がいてくれると、ターゲットになって逆に走りやすいんです。何人抜いたかはあえて気にしないようにしていました。ただ自分の力を出し切ること、それだけを考えて走りました」(村澤)

関連キーワード

関連記事

トピックス

雅子さま(2025年10月28日、撮影/JMPA
【天皇陛下とトランプ大統領の会見の裏で…】一部の記者が大統領専用車『ビースト』と自撮り、アメリカ側激怒であわや外交問題 宮内庁と外務省の連携ミスを指摘する声も 
女性セブン
名古屋事件
【名古屋主婦殺害】長らく“未解決”として扱われてきた事件の大きな転機となった「丸刈り刑事」の登場 針を通すような緻密な捜査でたどり着いた「ソフトテニス部の名簿」 
女性セブン
今年の6月に不倫が報じられた錦織圭(AFP時事)
《世界ランキング急落》プロテニス・錦織圭、“下部大会”からの再出発する背景に不倫騒と選手生命の危機
NEWSポストセブン
国仲涼子が『ちゅらさん』出演当時の思い出を振り返る
国仲涼子が語る“田中好子さんの思い出”と“相撲への愛” 『ちゅらさん』母娘の絆から始まった相撲部屋通い「体があたる時の音がたまらない」
週刊ポスト
「運転免許証偽造」を謳う中国系業者たちの実態とは
《料金は1枚1万円で即発送可能》中国人観光客向け「運転免許証偽造」を謳う中国系業者に接触、本物との違いが判別できない精巧な仕上がり レンタカー業者も「見破るのは困難」
週刊ポスト
各地でクマの被害が相次いでいる(左/時事通信フォト)
《空腹でもないのに、ただただ人を襲い続けた》“モンスターベア”は捕獲して山へ帰してもまた戻ってくる…止めどない「熊害」の恐怖「顔面の半分を潰され、片目がボロり」
NEWSポストセブン
カニエの元妻で実業家のキム・カーダシアン(EPA=時事)
《金ピカパンツで空港に到着》カニエ・ウエストの妻が「ファッションを超える」アパレルブランド設立、現地報道は「元妻の“攻めすぎ下着”に勝負を挑む可能性」を示唆
NEWSポストセブン
大谷翔平と真美子さんの胸キュンワンシーンが話題に(共同通信社)
《真美子さんがウインク》大谷翔平が参加した優勝パレード、舞台裏でカメラマンが目撃していた「仲良し夫婦」のキュンキュンやりとり
NEWSポストセブン
兵庫県宝塚市で親族4人がボーガンで殺傷された事件の発生時、現場周辺は騒然とした(共同通信)
「子どもの頃は1人だった…」「嫌いなのは母」クロスボウ家族殺害の野津英滉被告(28)が心理検査で見せた“家族への執着”、被害者の弟に漏らした「悪かった」の言葉
NEWSポストセブン
イギリス出身のインフルエンサーであるボニー・ブルー(本人のインスタグラムより)
“最もクレイジーな乱倫パーティー”を予告した金髪美女インフルエンサー(26)が「卒業旅行中の18歳以上の青少年」を狙いオーストラリアに再上陸か
NEWSポストセブン
大谷翔平選手と妻・真美子さん
「娘さんの足が元気に動いていたの!」大谷翔平・真美子さんファミリーの姿をスタジアムで目撃したファンが「2人ともとても機嫌が良くて…」と明かす
NEWSポストセブン
逮捕された鈴木沙月容疑者
「もうげんかい、ごめんね弱くて」生後3か月の娘を浴槽内でメッタ刺し…“車椅子インフルエンサー”(28)犯行自白2時間前のインスタ投稿「もうSNSは続けることはないかな」
NEWSポストセブン