村澤は中盤までに一気に16人を抜き、終盤にも1人抜いて17人抜きを達成した。最後の下り坂では疲労で足がピーンと張るなか、気力を振り絞り花形区間を走り抜いた。

◆応援のエネルギーはすごいです

「箱根駅伝で最も景色がよい」とされる3区。長い下り坂を越えて国道134号線に進むと、左手に相模湾、正面に富士山という絶景が広がる。2018年に青山学院大の選手だった田村和希(住友電工、24才)は、3区の走者だけが知る光景をこう語る。

「最初の10kmまでは沿道に人がたくさんいて、応援の声がバーッと耳に入るんです。だけど、海沿いに出ると急に人が減り、しんとなる。そのギャップには驚きました。声援があると興奮して高揚感が出るのですが、海沿いに出て静かになった瞬間には、疲れやキツさを急激に感じました。やっぱり応援のエネルギーはすごいです」

 前出の東海大・佐藤も1年時に3区に指名された。

「東海大学の湘南キャンパスがある3区の声援は、走りに集中していても耳が痛くなるほど大きくてびっくりしました。よく『応援が力になるでしょう』と言われますが、キツいものはキツいです(苦笑)。でも、諦めそうになった時に知り合いの応援があると、『もう一度頑張ろう』という気になります」(佐藤)

 大声援をバネに、この大会の佐藤は3区で8人を抜いて区間新を叩き出す。

 平塚中継所から西へ西へと海岸沿いを進み、小田原へ。小田原中継所から始まる5区は全長20.8km、標高差840mの険しい道のりだ。

「箱根の山は天下の嶮(けん)」と歌われる、壁のような登り坂を全速力で駆け上がるこの区間は、箱根駅伝で最も厳しいコースとの呼び声が高い。

「僕の時代までは選手の間でも敬遠されがちな区間で、多くの人は『5区は行きたくない、あんなキツいところ…』と(笑い)。でも僕は難しいコースだからこそ、人と差をつけやすいし、自分を売り込めるまたとないチャンスだと思っていました」

 と語るのは、5区で3度の区間賞を受賞して、「元祖・山の神」と呼ばれた順天堂大の今井正人(トヨタ自動車九州、35才)。

「宮ノ下(中間点)で割れんばかりの声援をいただいたのですが、その後静けさで耳がキーンとして…あの余韻のような感覚は今でも覚えています。

 そのあたりから一段と傾斜がきつくなります。特に恵明学園から山頂までの坂道は、登っても登っても同じような景色が繰り返されるので、“フェイク坂”と呼んでいました(笑い)。『そろそろ山頂か』と思ってカーブを曲がっても、『まだ見えない…』となるのが精神的に本当にキツかった。

 ようやくたどり着いた山頂から下り切ったところの、大鳥居をくぐってからの坂道も地味にキツいんです。油断したら足がガクガクになりそうで怖くて。ゴールの瞬間は、襷がつなげられたことでプレッシャーから解放され、何よりほっとしました」

 こうして往路は幕を閉じる。
(文中、敬称略)

※女性セブン2020年1月16・23日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

全米野球記者協会ニューヨーク支部主催のアワードディナーに出席した大谷翔平と、妻・真美子さん(左/時事通信フォト、右/提供:soya0801_mlb)
《真美子さんが座る椅子の背もたれに腕を回し…》大谷翔平が信頼して妻を託す“日系通訳”の素性 “VIPルーム観戦にも同席”“距離が近い”
NEWSポストセブン
司法省がアンドリュー元王子の写真を公開した(写真/Getty Images)
《白シャツ女性に覆いかぶさるように…》エプスタイン・ファイルで新公開されたアンドリュー元王子とみられる人物の“近すぎる距離感の写真” 女性の体を触るカットも
NEWSポストセブン
(時事通信フォト)
【2・8総選挙「大阪1〜10区」の最新情勢】維新離党の前職が出た2区、維新前職vs自民元職vs野党候補の5区で「公明党票」はどう動くか
NEWSポストセブン
なぜ実の姉を自宅で監禁できたのか──
《“お前の足を切って渡すから足を出せ”50代姉を監禁・暴行》「インターホンを押しても出ない」「高級外車が2台」市川陽崇・奈美容疑者夫妻 “恐怖の二世帯住宅”への近隣証言
NEWSポストセブン
東京拘置所(時事通信フォト)
〈今年も一年、生きのびることができました〉前橋スナック銃乱射・小日向将人死刑囚が見せていた最後の姿「顔が腫れぼったく、精神も肉体もボロボロ」《死刑確定後16年で獄中死》
NEWSポストセブン
間違いだらけの議事録は「AIのせい」(写真提供/イメージマート)
《何でもAIに頼る人たち》会社員女性が告白「ケンカの後、彼から送られてきた”彼女の方が悪い”とAIが回答したスクショ」ほどなく破局
NEWSポストセブン
国際ジャーナリスト・落合信彦氏
国際ジャーナリスト・落合信彦氏が予見していた「アメリカが世界の警察官をやめる」「プーチン大統領暴走」の時代 世界の“悪夢”をここまで見通していた
NEWSポストセブン
高市早苗首相(時事通信フォト、2025年10月15日)
《頬がこけているようにも見える》高市早苗首相、働きぶりに心配の声「“休むのは甘え”のような感覚が拭えないのでは」【「働いて働いて」のルーツは元警察官の母親】 
NEWSポストセブン
ジェンダーレスモデルの井手上漠(23)
井手上漠(23)が港区・六本木のラウンジ店に出勤して「役作り」の現在…事務所が明かしたプロ意識と切り開く新境地
NEWSポストセブン
元日に結婚を発表した女優の長澤まさみ(時事通信フォト)
長澤まさみ「カナダ同伴」を決断させた「大親友女優」の存在…『SHOGUN』監督夫との新婚生活は“最高の環境”
NEWSポストセブン
国際ジャーナリスト・落合信彦氏
【訃報】国際ジャーナリスト・落合信彦氏が死去、84歳 独自の視点で国際政治・諜報の世界を活写 
NEWSポストセブン
薬物で急死した中国人インフルエンサー紅紅(左)と交際相手の林子晨容疑者(右)(インスタグラムより)
「口に靴下を詰め、カーテンで手を縛り付けて…」「意識不明の姿をハイ状態で撮影」中国人美女インフルエンサー(26)が薬物で急死、交際相手の男の“謎めいた行動”
NEWSポストセブン