「『バランス良く』って言葉を僕は信じてないんです。例えば麻雀が本当に強い人って攻守の判断が実はアンバランスでね。守るべきときに過剰にガードして、攻めるべき時は大胆すぎるくらいになる、その『べき時』を正解し続ける人が一番強いわけです。麻雀も俳句も人生も。
句集が商業的に〈ペイする〉か否かとか、普通はあまり言いたがらない正解もここには書きましたが、少しでも多くの人に俳句が読まれ、作る側も有機的かつ楽しんで研鑽し合える場を正解し続けないと、熱そのものが続いていかない。
僕は常々俳句の世界に足りないのは〈逸話〉だと思うんです。ゴッホでもビートルズでも、当人たちの生々しいこぼれ話が作品をより豊饒にするように、生身の人間が悩んだりぶつかったりする現場の不格好でまとまりのない余談が、僕には今、最も必要で〈届く〉言葉に思えたのかもしれません」
あくまで主語は「俳句の生まれる場」。飄々と見せて熱い著者が、今後も「人と詠む」を辞めることはない。
【プロフィール】ながしま・ゆう/1972年生まれ、北海道育ち。東洋大学第二部文学部卒。2001年『サイドカーに犬』で文學界新人賞を受賞しデビュー。2002年『猛スピードで母は』で芥川賞、2007年『夕子ちゃんの近道』で大江健三郎賞、2016年『三の隣は五号室』で谷崎潤一郎賞。1994年に朝日ネット「第七句会」で句作を始め、1995年「恒信風」同人。2014年に句集『春のお辞儀』を発表し、同人「傍点」を主宰。2019年度「NHK俳句」選者。175cm、73kg。
◆構成/橋本紀子 撮影/国府田利光
※週刊ポスト2020年1月17・24日号