◆無駄なものなどこの世にはない

 そんな石井氏の周囲に参集した〈街角狸〉マニアやゴムホース愛好家といった同業他社(?)が見ている景色は、視点次第で違った。

「要は僕の片手袋の写真を、マンホール目線で見る人もいれば鉄塔目線で見る人もいて、一つの空間に多様な視線や位相が並行的に共存するのも、路上の面白さであり包容力だと思うんです。

 しかも昔は友達に見せる程度だったのが、今はカメラ自体が通信機能を持ち、各々が捉えた世界を国際的に共有することもできる。そもそも片手袋自体、誰が落としたか分からない匿名性の文化ですから、片手袋研究家である僕の名前すら知らなくても、『#片手袋』で誰もが写真投稿できる今のフラットな開放空間こそ、本来という感じもします」

 その落とし物が誰のものでもない路上に落ちているからこそ、素敵なのだと。

「厳密には道にも手袋にも持主はいます。ですが権利がどうのコンプライアンスがどうのと何かと煩い昨今、ギリギリ誰のものでもない余白があるとしたら、僕は路上の片手袋だと思うんですね。都会の行間、またはエアポケットと言ってもいい。特に今の東京みたいに規則や利害関係でがんじがらめの街にまだ誰の手も及ばない境界があるというだけで、何だかホッとします。

 たぶんSNSで毎日のように炎上騒ぎが起きるのも、みんな互いの背景が見えすぎて、違いばかり探してるから。その違いを片手袋の匿名性は軽く超えていける部分があって、他人だから拾ってあげられるとか優しくなれるとか、心の余裕をギリギリ繋ぎとめる媒体として、僕は片手袋を見ているのかもしれません」

関連キーワード

関連記事

トピックス

NHK次期エースの林田アナ。離婚していたことがわかった
《NHK林田アナの離婚真相》「1泊2980円のネカフェに寝泊まり」元旦那のあだ名は「社長」理想とはかけ離れた夫婦生活「同僚の言葉に涙」
NEWSポストセブン
被害者の平澤俊乃さん、和久井学容疑者
《新宿タワマン刺殺》「シャンパン連発」上野のキャバクラで働いた被害女性、殺害の1か月前にSNSで意味深発言「今まで男もお金も私を幸せにしなかった」
NEWSポストセブン
米国の大手法律事務所に勤務する小室圭氏
【突然の変節】小室圭さん、これまで拒んでいた記念撮影を「OKだよ」 日本人コミュニティーと距離を縮め始めた理由
女性セブン
大谷翔平の妻・真美子さんを待つ“奥さま会”の習わし 食事会では“最も年俸が高い選手の妻”が全額支払い、夫の活躍による厳しいマウンティングも
大谷翔平の妻・真美子さんを待つ“奥さま会”の習わし 食事会では“最も年俸が高い選手の妻”が全額支払い、夫の活躍による厳しいマウンティングも
女性セブン
公式X(旧Twitter)アカウントを開設した氷川きよし(インスタグラムより)
《再始動》事務所独立の氷川きよしが公式Xアカウントを開設 芸名は継続の裏で手放した「過去」
NEWSポストセブン
現役を引退した宇野昌磨、今年1月に現役引退した本田真凜(時事通信フォト)
《電撃引退のフィギュア宇野昌磨》本田真凜との結婚より優先した「2年後の人生設計」設立した個人事務所が定めた意外な方針
NEWSポストセブン
広末涼子と鳥羽シェフ
【幸せオーラ満開の姿】広末涼子、交際は順調 鳥羽周作シェフの誕生日に子供たちと庶民派中華でパーティー
女性セブン
林田理沙アナ。離婚していたことがわかった(NHK公式HPより)
「ホテルやネカフェを転々」NHK・林田理沙アナ、一般男性と離婚していた「局内でも心配の声あがる」
NEWSポストセブン
中森明菜復活までの軌跡を辿る
【復活までの2392日】中森明菜の初代音楽ディレクターが語る『少女A』誕生秘話「彼女の歌で背筋に電流が走るのを感じた」
週刊ポスト
世紀の婚約発表会見は東京プリンスホテルで行われた
山口百恵さんが結婚時に意見を求めた“思い出の神社”が売りに出されていた、コロナ禍で参拝客激減 アン・ルイスの紹介でキャンディーズも解散前に相談
女性セブン
真美子夫人は「エリー・タハリ」のスーツを着用
大谷翔平、チャリティーイベントでのファッションが物議 オーバーサイズのスーツ着用で評価は散々、“ダサい”イメージ定着の危機
女性セブン
猛追するブチギレ男性店員を止める女性スタッフ
《逆カスハラ》「おい、表出ろ!」マクドナルド柏店のブチギレ男性店員はマネージャー「ヤバいのがいると言われていた」騒動の一部始終
NEWSポストセブン