『必殺仕事人』は舞台化され、そこでも藤田と共演している。
「舞台は同じ場面の同じセリフでも芝居の間とかがいつも違うんですよね。特に藤田さんはキャッチボールがいつも違う。
藤田さんは『みいちゃんな、わしはどんな変化球でもサインなしで受けることができる』とよく言ってました。それは映像でも同じです。テストと本番で返し方を変えてくる。その返し方が鳥肌立つくらい凄い。
たとえば秀が『おっさん、やってやろうじゃねえか』と言ったら主水は『イキがってるんじゃねえよ』みたいなやりとりがよくあるんですが、時に藤田さんは『まあ、頑張りや』みたいにスカしてくる。舞台になると、それが毎回変わるんです。
仕事人を演じる上で藤田さんが意識されていたのは、『仲良しグループではなく、いつ殺されるか分からない緊張感を持つ』ということでした。それがやはり画面に出るんですよ。
いろいろ変えていく中で、どの芝居が正解なのか。その答えがないから面白いんですよね。
ある時、藤田さんと撮影所でテレビを見ていたんですが。その時、緒形拳さんが何かの映画の記者会見で『最高の芝居をした』と言っている。それで藤田さんに『藤田さんは最高の芝居をしたことありますか?』と聞いたら、『そんなもんあるかい』って。『でも、緒形さんは言ってますよ』と言ったら『営業営業。本気でそんなこと思う人なら、こんな長く芝居やってへん。そんなの思ったら役者できへんわ』と言うんです。それを聞いて気が楽になりました」
■撮影/黒石あみ
【プロフィール】かすが・たいち/1977年、東京都生まれ。主な著書に『天才 勝新太郎』『鬼才 五社英雄の生涯』(ともに文藝春秋)、『なぜ時代劇は滅びるのか』(新潮社)など。本連載をまとめた『すべての道は役者に通ず』(小学館)が発売中。
※週刊ポスト2020年1月31日号