芸能

竹内涼真『テセウスの船』が『麒麟がくる』を凌駕していた点

番組公式HPより

 最近は録画視聴が当たり前になっているとはいえ、ほぼ同時間帯に放送されるドラマとなればそのクオリテイの差はどうしても気になるものである。ドラマウォッチを続ける作家で五感生活研究所代表の山下柚実氏が日曜劇場と大河ドラマについて分析した。

 * * *
 NHK大河ドラマ『麒麟がくる』の話題にかき消された観もある、竹内涼真主演のTBS日曜劇場『テセウスの船』(午後9時)。大河のスタートと同日の1月19日に第1話がスタートし、初回視聴率は11.1%と二桁台に載せました。この状況下ではなかなかの好発進と言ってよいでしょう。予断を持たずまっさらの状態で視聴し、終わった後に強い印象を抱いた視聴者もいたのでは? 何と言っても「竹内涼真」という俳優の、凄まじい集中力が画面にみなぎっていたからです。

『テセウスの船』は、東元俊哉氏による漫画が原作の連続ドラマ。主人公・心(竹内涼真)は警察官の父が起こした殺人事件が元で、小さな頃から肩身の狭い生活をし差別的待遇も受けてきた。大人になり結婚しても、最愛の妻は出産を機に亡くなってしまう不幸。「あなたの父親を信じてみて」という一言を残した妻。それが事件の謎を追うきっかけとなり、心は父・文吾が事件を起こした雪深い田舎の村の現場へと向かう。すると、事件が起こる前の1989年へと心はタイムスリップしてしまい、父と出会い……。

 主人公が「31年にタイムスリップ」して「実の父親と息子が対話する」という、考えてみれば非常にトリッキーな展開。それがあまりにフィクショナルに過ぎて、少し間違えれば「荒唐無稽」に転落しそう……というギリギリの所で、視聴者の心配を見事に押さえ込みグイグイと物語世界の中へ引っ張り込んでいった。荒技を見せた竹内涼真さんがアッパレです。

 緊張感と集中力が途切れず一時も気を抜かず、「父の本当の姿を探す男」になりきって叫ぶその迫力。もしかしたら、プロサッカー選手になるため練習に励みヴェルディのユースチームで培ってきた闘争心と捨て身の勝負心が、いよいよ俳優業で結実したのかもしれない。そう思わせてくれる程の凄まじい集中力で、視聴者は画面から目を離せなくなりました。

 そしてもう一人、成りきり力の凄い役者が父・文吾役の鈴木亮平さん。殺人犯として新聞に掲載された写真の顔は、目をひん剥いた形相。小さな白黒写真がこうも物語らせるパワーを持っているのか、とびっくりするほど。それくらい鬼気迫る目付きです。「役者の気力」がドラマを牽引していく原動力なのだ、という実にシンプルで本質的なことを、改めて感じさせてくれた初回でした。

 もう一つ、絵空事の物語の中で視聴者を迷える子羊にしないための優れた仕掛けがありました。それが「見取り図」です。過去にどんなことがあったのか。親子関係は。今の状況は。コンパクトで的確な見取り図を提示した。この点は同日スタートの大河ドラマ『麒麟がくる』を凌駕していたと言ってもいいほど。

関連記事

トピックス

NHK中川安奈アナウンサー(本人のインスタグラムより)
《広島局に突如登場》“けしからんインスタ”の中川安奈アナ、写真投稿に異変 社員からは「どうしたの?」の声
NEWSポストセブン
カラオケ大会を開催した中条きよし・維新参院議員
中条きよし・維新参院議員 芸能活動引退のはずが「カラオケ大会」で“おひねり営業”の現場
NEWSポストセブン
コーチェラの出演を終え、「すごく刺激なりました。最高でした!」とコメントした平野
コーチェラ出演のNumber_i、現地音楽関係者は驚きの称賛で「世界進出は思ったより早く進む」の声 ロスの空港では大勢のファンに神対応も
女性セブン
文房具店「Paper Plant」内で取材を受けてくれたフリーディアさん
《タレント・元こずえ鈴が華麗なる転身》LA在住「ドジャー・スタジアム」近隣でショップ経営「大谷選手の入団後はお客さんがたくさん来るようになりました」
NEWSポストセブン
元通訳の水谷氏には追起訴の可能性も出てきた
【明らかになった水原一平容疑者の手口】大谷翔平の口座を第三者の目が及ばないように工作か 仲介した仕事でのピンハネ疑惑も
女性セブン
襲撃翌日には、大分で参院補選の応援演説に立った(時事通信フォト)
「犯人は黙秘」「動機は不明」の岸田首相襲撃テロから1年 各県警に「専門部署」新設、警備強化で「選挙演説のスキ」は埋められるのか
NEWSポストセブン
歌う中森明菜
《独占告白》中森明菜と“36年絶縁”の実兄が語る「家族断絶」とエール、「いまこそ伝えたいことが山ほどある」
女性セブン
大谷翔平と妻の真美子さん(時事通信フォト、ドジャースのインスタグラムより)
《真美子さんの献身》大谷翔平が進めていた「水原離れ」 描いていた“新生活”と変化したファッションセンス
NEWSポストセブン
羽生結弦の元妻・末延麻裕子がテレビ出演
《離婚後初めて》羽生結弦の元妻・末延麻裕子さんがTV生出演 饒舌なトークを披露も唯一口を閉ざした話題
女性セブン
古手川祐子
《独占》事実上の“引退状態”にある古手川祐子、娘が語る“意外な今”「気力も体力も衰えてしまったみたいで…」
女性セブン
ドジャース・大谷翔平選手、元通訳の水原一平容疑者
《真美子さんを守る》水原一平氏の“最後の悪あがき”を拒否した大谷翔平 直前に見せていた「ホテルでの覚悟溢れる行動」
NEWSポストセブン
5月31日付でJTマーヴェラスから退部となった吉原知子監督(時事通信フォト)
《女子バレー元日本代表主将が電撃退部の真相》「Vリーグ優勝5回」の功労者が「監督クビ」の背景と今後の去就
NEWSポストセブン