ロンドン在住日本人が発信するブログによると、1ポンド=150円で換算した場合、2019年末時点の市内庶民向けスーパーマーケットで、ジャガイモ1キロ約150円、特大キュウリ1本約68円、トマト6個入り約150円が相場だという。英国では日本の消費税にあたる最大20パーセントの付加価値税が生鮮食料品には適用されないため、野菜や果物、精肉などに限れば、東京より安く買えるもののほうが多かった。
離脱が決まった現在の物価はどうか。ロンドン在住7年になる30代の日本人女性に問い合わせてみた。
「普通のスーパーと、市内で最大規模を誇るバラ・マーケットという食料品市場に足を運んだところ、値段は少し上がったかな、という印象です。でもそれは、ただのインフレなのかブレグジットが関係しているのか、季節の需要供給のバランスなのかがまだ分からないです。今の時点では、移行期間が完了して名実ともに離脱した時点での状況が想像もつきません。これからが正念場ですね」
ブレグジット自体については、「余り現実味がなく、正直を言うと、まだ夢のような感じ」という。「白熱しているのは一部の人だけで、ミドルクラス以上は諦めムード。あまり取り乱したり騒いだりせず、客観視して自虐ジョークを言っている」とも教えてくれた。
イギリスで栽培されている根菜類はともかく、EUからの輸入に頼っていたものの値上がりは避けられないため、生鮮野菜が庶民の手に届きづらくなることは目に見えている。
ただでさえ英国では、心臓疾患の有病率がEU加盟国の中で最も高く、その原因が高脂肪、高糖分の食事にあると考えられているだけに、交渉期限の過ぎた来年の年明け以降、野菜不足に起因する生活習慣病のリスクが高まるのではないか。
現在は物価の上昇がまださほどではないから落ち着いているのだろう。日本における少子高齢化問題と同じく、実際に尻に火がついてからでないと、目立った反応は起こらないのかもしれない。マイナス作用を誰もが実感させられるようになったとき、英国民がどのような進路決定をなすのか注目である。
【プロフィール】しまざき・すすむ/1963年、東京生まれ。歴史作家。立教大学文学部史学科卒。旅行代理店勤務、歴史雑誌の編集を経て現在は作家として活動している。著書に『ざんねんな日本史』(小学館新書)、『いっきにわかる! 世界史のミカタ』(辰巳出版)、『いっきに読める史記』(PHPエディターズ・グループ)など著書多数。最新刊に『哲学と宗教』(徳間書店)がある。