ノートルダム清心学園理事長を務めた渡辺和子。父の最期を語り続けた(時事通信フォト)

◆機銃掃射で「蜂の巣のように」

 井伏は、渡辺の被害についてその後に近所で伝え聞いた話も記録している。

〈襲撃に来た兵隊は[中略]庭に入って機関銃を据えて発砲した。渡辺さんは軍人だから「打つなら打て」と言って、自分もピストルを抜いて応戦した。

 騒ぎが終り反乱兵が引揚げると、四面道(しめんどう)の戸村外科医が応急手当をしに渡辺さんのうちへ呼ばれて行った。蜂の巣のようになっていて、手がつけられるものではなかったという。[中略]

 二・二六事件があって以来、私は兵隊が怖くなった〉(前掲書)

 襲撃対象の中でただ一人、決起将校らと同じ陸軍軍人だったことも、渡辺錠太郎殺害の意味を見えにくくさせている理由かもしれない。

 二・二六事件は、軍部独裁を目指す「皇道派」と呼ばれるグループが中心になって起こした事件だった。渡辺自身は当時、どの派閥にも属していなかったが、事件の首謀者である皇道派の磯部浅一は渡辺のことを、〈吾人の行動に反対して弾圧しそうな人物の筆頭〉と断じていた。そうした派閥争いの中で「敵」と目され、荻窪まで30名の武装将兵がやってきて殺害されたのだった。

 そう考えると、唯一の「戦死」の意味は決して小さくない。「非戦」を訴えていた渡辺錠太郎の死は、その後の日本の命運を暗示していたともいえるのではないか。

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