ノートルダム清心学園理事長を務めた渡辺和子。父の最期を語り続けた(時事通信フォト)

◆機銃掃射で「蜂の巣のように」

 井伏は、渡辺の被害についてその後に近所で伝え聞いた話も記録している。

〈襲撃に来た兵隊は[中略]庭に入って機関銃を据えて発砲した。渡辺さんは軍人だから「打つなら打て」と言って、自分もピストルを抜いて応戦した。

 騒ぎが終り反乱兵が引揚げると、四面道(しめんどう)の戸村外科医が応急手当をしに渡辺さんのうちへ呼ばれて行った。蜂の巣のようになっていて、手がつけられるものではなかったという。[中略]

 二・二六事件があって以来、私は兵隊が怖くなった〉(前掲書)

 襲撃対象の中でただ一人、決起将校らと同じ陸軍軍人だったことも、渡辺錠太郎殺害の意味を見えにくくさせている理由かもしれない。

 二・二六事件は、軍部独裁を目指す「皇道派」と呼ばれるグループが中心になって起こした事件だった。渡辺自身は当時、どの派閥にも属していなかったが、事件の首謀者である皇道派の磯部浅一は渡辺のことを、〈吾人の行動に反対して弾圧しそうな人物の筆頭〉と断じていた。そうした派閥争いの中で「敵」と目され、荻窪まで30名の武装将兵がやってきて殺害されたのだった。

 そう考えると、唯一の「戦死」の意味は決して小さくない。「非戦」を訴えていた渡辺錠太郎の死は、その後の日本の命運を暗示していたともいえるのではないか。

関連記事

トピックス

秋篠宮家の次女・佳子さま(時事通信フォト)
《不敬どころの騒ぎじゃない》秋篠宮家・佳子さまも被害に…AIを用いた性的画像の被害が世界的問題に 専門家が指摘「男女問わず人権侵害」
NEWSポストセブン
炭火焼肉店「ギュウトピア」
《焼肉店の倒産件数が過去最多》逆風のなか格安スーパー【ロピア】が仕掛ける「コスパ焼肉店」とは?「1309円ランチ」の中身
NEWSポストセブン
実業家の宮崎麗香
《もう家族でハワイに行けない…》“1.5億円の脱税疑惑”の宮崎麗果、“ESTA取得困難”で恒例の「セレブ旅行」は断念か SNSで「深い反省」示す
NEWSポストセブン
元子役のパイパー・ロッケル(Instagramより)
「1日で4億円を荒稼ぎ」米・元人気子役(18)が「セクシーなランジェリー姿で…」有料コンテンツを販売して批判殺到、欧米社会では危機感を覚える層も
NEWSポストセブン
観音駅に停車する銚子電気鉄道3000形車両(元伊予鉄道700系)(時事通信フォト)
”ぬれ煎餅の奇跡”で窮状を脱した銚子電鉄を悩ませる「米価高騰」 電車を走らせ続けるために続ける試行錯誤
NEWSポストセブン
元旦に離婚を発表した吉岡美穂とIZAM(左・時事通信フォト)
《3児の母・吉岡美穂がIZAMと離婚》夫のために「“鬼嫁キャラ”を受け入れた妻の想い」離縁後の元夫婦の現在
NEWSポストセブン
イスラム組織ハマスの元人質ロミ・ゴネンさん(イスラエル大使館のXより)
「15人ほどが群がり、私の服を引き裂いた」「私はこの男の性奴隷になった…」ハマスの元人質女性(25)が明かした監禁中の“惨状”
NEWSポストセブン
2026年1月2日、皇居で行われた「新年一般参賀」での佳子さま(時事通信フォト)
《礼装では珍しい》佳子さまが新年一般参賀で着用、ウエストまわりに“ガーリー”なワンポイント 愛子さまは「正統的なリンクコーデ」を披露
NEWSポストセブン
中国出身の女性インフルエンサー・Umiさん(TikTokより)
〈抜群のスタイルとルックスが一変…〉中国人美女インフルエンサーが示唆していた「潘親方(特殊詐欺グループのボス)」との“特別な関係”とは《薬物検査で深刻な陽性反応》
NEWSポストセブン
立川志らく氏(左)と貴乃花光司氏が語り合う
【対談・貴乃花光司氏×立川志らく氏】新大関・安青錦に問われるものとは?「自分の相撲を貫かなければ勝てません」“師匠に恵まれた”ことも一つの運
週刊ポスト
SNS上で拡散されている動画(Xより)
「“いじめ動画”関係者は始業式に不参加」「学校に一般の方が…」加害生徒の個人情報が拡散、YouTuberが自宅突撃も 県教委は「命にかかわる事態になりかねない」《栃木県》
NEWSポストセブン
女優・羽野晶紀と和泉元彌の母の節子さん(右・時事通信フォト)
《女優・羽野晶紀“嫁姑騒動”から24年目 の異変》元日に公開された和泉節子さんとの写真から伝わる「現在の距離感」
NEWSポストセブン