比田勝から車で10分ほどのところに温泉施設があるというので行ってみた。湯船につかりながら対馬の青い海の広がる絶景を楽しめる。
この温泉施設の隣には、昨年9月に開業したばかりの日本の大手ビジネスホテルチェーンが運営する宿泊施設がそびえている。風呂上がりに地元の人に聞いてみると、韓国人観光客の利用を見込んで作られたらしい。だが、帰りにホテルのラウンジでコーヒーを飲もうと足を運んでみると、スタッフ以外に人の姿はない。フロントの脇にある広いスペースには自動販売機と簡易テーブルが置かれているだけだ。
それにしても、対馬にある免税店や宿泊施設のキャパシティを考えると、これまでどれほど多くの韓国人が島を訪ねていたのかと思う。比田勝の住人から聞いた話だが、「日本は嫌いだけれども、対馬は好き」という韓国人もいるという。ではいったい、韓国人は対馬に何を求めて足を運んでいたのだろうか。
島民にそう尋ねると、「よくわからない」という答えばかりが返ってきた。ただ、いろいろ聞いてみると、どうやら島に残された“手つかずの自然”と“魚”に魅かれてのことのようだ。“手つかずの自然”は、今の中高年が子どもの頃、まだ開発が進んでいない韓国の姿と重なるのだろう。そのような自然は韓国全土からほぼ消滅してしまっている。
“魚”については、比田勝港国際ターミナルのすぐそばに何軒か、新鮮な魚をネタにした寿司屋が点在している。対馬に滞在中、私は何度か寿司屋に入ったが、そこには今では“珍しい客”となった韓国人客が寿司を頬張り、楽しそうに過ごしている姿が見られた。韓国経済の中心地であるソウル・江南地区でも、寿司は“お洒落な日本食”として人気がある。それが、ここ対馬では信じられないほどネタがよく、激安な価格で堪能できるのだ。
韓国人客は多くがリピーターになって再訪してくれていたという。その一方で、日本人客は、「もう対馬には来ないと思う」と言って帰る人も少なくなく、それが寂しいと、島で小売店を営む主人は少し顔をしかめて話していた。