武蔵小杉の被災マンションの入り口には土嚢が積まれた
じつは私も「内水氾濫で地下に設置された電気室が冠水」した結果、建物内への電力供給が不能になるという事態をまったく予測していなかった。また、電力が途絶えると建物内で発生する汚水を外部の汚水管へ排出するポンプをも動かせなくなるということも初めて知った。タワマンは、電力が正常に供給されないとトイレさえ流せなくなるのだ。
電力供給の途絶は地震だけではなく台風でも起こり得た。さらに今回は見られなかったが、河川の流水が氾濫や決壊、あるいは越水で街路にあふれ出した場合は、地下に設けられていることが多い電気室は冠水する危険性があるということだ。海に近いタワマンなら、高潮や津波によって同じことが起こる可能性がある。
つまり、タワマンとは地震や冠水によって一瞬で居住不可能な鉄筋コンクリートの箱へと化すのだ。そして、被災した後は「あのマンションはあの時に住めなくなった」という履歴を残すことになる。資産価値への影響は避けられないはずだ。
あの武蔵小杉のタワマンに住んでいた人の中には、被災後にすでに引っ越しをした人や、いま住み替えを検討している人もいるはずだが、それは主に住戸を借りて住んでいた人たちだろう。
電気が来なくてトイレが使えないマンションには、事実上居住が不可能だ。住めなくなったマンションに家賃は発生しない。賃貸借契約は即時解約となり、借り手側のペナルティも当然ない。
もちろん、被災後の資産価値の低下に悩む必要もない。いってみれば「他人事」だ。それでいて、被災までは区分所有の居住者とまったく変わらないタワマン生活を享受できた。違いがあるとすれば、払っていたのが家賃なのか住宅ローン+管理費・修繕積立金等なのかということだろう。