「寺内をはじめ、小学生の段階から英才教育をした選手は何人もいますが、玉井陸斗は特別な選手。子どもの年代だと、10mの高さから飛び込む恐怖心を取り除くのは大変なんですが、彼はまったく恐れない。私は中国で過ごしていた子どもの頃、体操から飛び込みに転向しました。中国の飛び込みの選手は、8割方が体操出身です。国が選手を育成する中国では、競技間のつながりもあり、体操選手を飛び込みにスカウトするのです。玉井の場合、体操の経験はゼロですが、体操選手以上の身体のキレがあり、回転のスピード、ひねりの動きは抜群です」
五輪競技の中には、競泳や新体操など、若いうちから活躍できる競技がある。小学校を卒業して1年あまりの、キャリアで大きく劣る中学1年生が日本のトップに立てるというのは、競技の特性として若年層に“体格の利”があるのだろう。
「空中でバランスを保つ上で、身体が小さいことが有利に働くことはある。小さければスピードも出るし、回転も速い。(逆立ちしながら水面に飛び込んでいくこともある)飛び込みも筋力は必要ではありますが、他のスポーツほど『筋肉の発達=パフォーマンスの向上』とはならない。その点が、若い世代から五輪出場を可能にする要素ではないでしょうか」
しかし、一般的に13歳といえば、成長期を迎えるタイミングだ。1年単位で、いや1か月、1週間単位で大きく身体が成長していく時期と重なる。10mの高さから、空中で縦横に身体を回転させて水面に飛び込んでいく高飛び込みで、肉体が変化し続けることは選手にとって難題となるのではないだろうか。
「それは大いにあります。空中に身体がある場合、自分でコントロールしようと思っても、簡単にできるわけではない。成長期の選手は、ふつうは調子がおかしくなります。しかし、玉井の場合、それを補う身体能力がある。確かに、この1年間で彼の身体は身長も体重も、成長していますけど、とても緩やかな成長ではあるので、対応できている。まさに“旬”な状態で、東京五輪を迎えられると思います」