送迎車に乗せる前の検温を徹底することで発熱のある利用者を事業所に連れて行かなかったとしても、ドライバーはそのまま向かわざるを得ない。この場合、事業所はどう対処すればいいのか。
「日々の手洗い、うがいの徹底はもちろん、仮に発熱したら病院を受診して検査、という流れでしょうが、今は病院もなかなか検査してくれないっていうし、困っています。消毒用のアルコールを送迎車に常備しようという議論もありましたが、可燃物ですから、危険だということでうちの事業所では見送りになっています」(藤田さん)
さらに「事業所ごとの独自ルールも悩みのタネです」と藤田さんは頭を抱える。
「うちの施設の運営は、傘下に複数の特別養護老人ホームなどの施設を持つわりと大きな社会福祉法人です。2月の下旬に法人全体の方針として『家族の誰かに発熱者が出たら、その時点でその職員は最低2日間の出勤停止』ということにしました。どこの法人も似たようなルールを設定していると思います」
水際対策を徹底することで、事業所へのウイルスの侵入をシャットアウトするためだが、藤田さんは次のように懸念する。
「濃厚接触しているであろう家族の誰かが発熱したら出勤できない。このルールを徹底するということは、僕が送迎している利用者さんに発熱者が出た場合、その瞬間に僕の出勤も停止しないと理屈に合いません。僕らは毎日のように検温時の利用者さんと接しているわけですからね」
藤田さんによれば、「感染が怖くて送迎車には乗りたくないという職員も出てきています」という。ドライバーの出勤停止やなり手不足が相次げば、施設の運営そのものに大きな影響が出る。
デイサービスなど通所系の事業所は利用者の大部分が送迎車を利用している。家族が送り届けている例もなくはないが、数は多くない。マイカー率の低い都市部はなおさらだ。送迎車のドライバーは事業所の要とも言える。彼らの安全をどう守るか。介護業界は難しい問題の対応に迫られている。
◆取材・文/末並俊司(介護ジャーナリスト)