五輪の競技会場が近いからと言って、不動産の資産価値が高まるわけではない。五輪はパラリンピックも含めて2か月程度のイベントに過ぎない。競技会場の多くも、閉幕後は取り払われる。

 不動産の資産価値を左右するのは、一にも二にも立地条件である。マンションのような住居系不動産の場合は、交通利便性の良し悪しである。湾岸エリアに五輪施設の多くが設けられたのは、そこに広大な未使用地があったからに過ぎず、それまでそういった土地が使われていなかったのはすなわち、「使いにくい」からに他ならない。

 そういった使いにくい土地も「五輪が開催される」という華やかさで人々の心を高ぶらせることで、何となく「未来に向かって発展する」と思わせた。

 今回、五輪開催に伴って新たに地下鉄などの新路線が作られたわけではない。わずかにBRT(バス高速輸送システム)という輸送力に疑問符が付く新交通システムが導入されるだけである。つまり、湾岸エリアの交通利便性の悪さは五輪が開催されてもされなくても、ほとんど変わっていないのである。

 もともと、資産価値を構成する最重要な要素である交通利便性に恵まれない東京の湾岸エリアで、人々の心を高揚させてきた五輪さえ開催されないとなると、どうなるのか? それは、誰が考えても分かることではないか。

 じつのところ、五輪が開催される湾岸の埋立地に群立するタワマンを好んで購入した人々には、分かりやすい属性がある。それは「ニューカマーのプチ成功者」というクラスターなのだ。

 大学入学か就職時に東京にやってきて、その後世帯年収が1500万円以上に達した人々である。そのあたりの傾向は拙著『限界のタワーマンション(集英社新書)』等をご参照いただきたい。彼らは東京のどこかの街に愛着があるわけではないので、湾岸埋立地の荒漠な風景にも違和感を抱かない。超高層で存在感が強すぎるタワーマンションという建築構造物にも、醜悪さを感じない。

 さらに、この「ニューカマーのプチ成功者」と近似した感覚で湾岸のタワマンを好んで購入した人々がいた。それは東アジア系の外国人たちである。彼らもほとんど、埋立地に対する違和感を抱かないようだ。それよりも、あの超高層の建築物をカッコ良く受け取る感性を備えている。

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