「匠 進吾」の高橋進吾さん
高橋さんと弟子たちの一日は、仕込みに始まり、仕込みに終わると言っても過言ではない。夜の開店に向け、午前から魚を下ろし、塩を当て、酢をくぐらせと準備に追われる。熟成マグロをはじめ、もう何日も前から用意されているネタも少なくない。私たちが座って食べる至福のひとときの裏では、膨大な手間隙がかけられているのだ。
高橋さんは、豊洲市場にも弟子と一緒に足しげく通う。
「市場へは魚を選りに行くのではなく、魚を選ってくれる仲買人とのコミュニケーションをとりに行く感じです。高いお金を払えば仕入れることもできるかもしれないけど、仲買いさんから『この人に自分の魚を使ってもらいたい』と思われる人間にならないと、と思っています」
高橋さんのこうした誠実な姿勢は、客に対しても同じだ。分け隔てなく客に接し、さらには、できる限り料金を抑えて最高の鮨を提供したいと考えているのだ。
「漁獲量が減っていることに対し、市場の人たちも私たちも危機感を持っています。しかし、酢、塩などを駆使した江戸前の技術で、鮨ネタに適さないとされる魚でも、美味しくすることはできる。たとえば、あまり使われない冬の大きなニシンでも、骨をとってうまく処理すれば、まるで脂ののったイワシのようになる。良質な魚を仕入れ、その旨さを120%までもっていくことが、仕込みの力なんです。魚の価格は上がっていますが、工夫して安く美味しくお客さんに食べていただきたいんです」